学力不振の症状10

この『V字回復の経営』(三枝匡・著、日本経済新聞出版社)の巻末に「不振事業の症状50」が一覧化されている。
10点抜粋しながら、学習塾における読み替えをしてみよう。

■症状1<組織内に危機感がない。一般に企業の業績悪化と社内の危機感は逆相関の関係である>

→読み替え「生徒本人に危機感がない。一般に生徒の成績低迷と生徒の危機感は逆相関の関係である」

・・・高成績の生徒の方が偏差値1ポイントの上下に神経質になり、低成績の生徒の方がノホホンと『〇〇君よりマシだし』と危機感がない。

■症状3<経営者は、ただ危機感を煽る言葉を口にしているだけである>

→読み替え「先生は、こんな状態だったら高校に行けないぞ!と危機感を煽っているだけである」

・・・じゃあどうする、という具体的な次の道しるべを示すことが先生の役割である。

■症状17<全部署が全商品群に関与しているため、個々の商品への責任感が薄まっている>

→読み替え「一人の生徒に複数の先生が関与しているため、先生たちにとって個々の生徒への責任感が薄まっている」

・・・大手塾へ行って失敗するパターンはこの構図が発生している。「〇〇君に対しては△△先生”も”担当しているし」と、先生自身が逃げの心理になってしまう。もちろん、難関校向けの集団塾は先生が教科担任だからこそ、各教科の専門性が発揮できるメリットもある。これら両者の違いを見分けることは至難だが、実は大切。

■症状22<商品別の全体戦略が「開発→生産→営業→顧客」の一気通貫で行われていない>

→読み替え「一人の生徒に対する戦略が、家庭・生活環境・本人の特性・学校の様子・各教科の様子・進路を一気通貫して検討されていない」

・・・ダメな指導法として、生徒が質問してきた内容しか扱わない授業スタイルがある。自分の立ち位置と将来の構想が見えている自立した生徒はこの指導法で成功するが、今現在の問題点・進路の見通しが錯綜している生徒にこの方法を適用してしまうと、その都度の場当たり的な授業対応になってしまい、生徒の本当に改善すべき問題が改善されなかったり、進路に向けて無意味な施策がなされてしまったりする。指導者の役割は、過去・現在・未来の時系列を踏まえて生徒の取り組みを交通整理することである。

■症状28<トップも社員も表層的な数字ばかりを追いかけ、議論が現場の実態に迫っていない>

→読み替え「先生が成績表について短期間での上がった・下がったにしか関心がなく、生徒の根本的な問題解決に関心をもっていない(スキルがない)」

・・・五ツ木のような模試の成績表を見ながら、「〇〇君、上がりましたね~」「下がりましたね~」としか先生が言えない保護者面談を目撃したことがある。上がった理由、下がった理由を分析できない指導者は不適格である。そういった指導者は「〇〇君は、授業は理解しているんですけど、テストになると解けないんですよね~」と保護者に言う。いやいや、解けないのは真に理解していないからだよ、とツッコミたくなったが、そういうレベルのことを言う指導者には注意。

■症状32<社員が外部に会社の不満を垂れ流し、会社の看板を背負うことを投げ出している>

→読み替え「先生が勤務している塾の悪口を言い、塾の看板を背負うことを投げ出している」「生徒が通っている塾の不満ばかりを言い、自分の足元の取り組みがおろそかになっている」「保護者が塾の不満を言い、子どものモチベーションを下げている」

・・・本当に不満に思うこともあるから、あくまでケースバイケースでもある。必ずしも塾だけが正しいとは限らない。「先生が」の方は、先生は当事者なんだから所属先の悪口を言いふらすのは、親や先祖の悪口を言って、天に唾を吐いて自分の首を絞めているようなものだ。これを本末転倒という。

■症状33<過去の戦略不在やふらつきのため、取引先が不信感を抱いている>

→読み替え「指導者に方針が無かったり、方針転換を繰り返すと、生徒や保護者が不信感を抱く」

・・・これは学校でもあることで、学校は校長先生が変わると学校の方針や雰囲気がガラッと変わったりする。ここで下手をすると、生徒や保護者を混乱に陥れることになり、特に私学であれば生徒の退学者数が増加する原因にもなったりする。

■戦略38<「戦略」が個人レベルまで降りておらず、毎日の「活動管理」のシステムが甘い>

→読み替え「謳われている教育方針は立派だが、それが個々の生徒に徹底されていない。その生徒がどんな勉強をしているか、指導者が管理出来ていない>

・・・これは今まさに。学校が新型コロナウイルス対策で長期休止に入るや、オンライン学習システムを提供する新興の教材会社がこぞって「緊急対策として〇〇システムを無料開放」みたいなことをしているが、教材を与えて自立(自律)して勉強出来るのは上位16%の五ツ木偏差値60以上の生徒であり、その他84%の生徒は【管理】が必ず必要である。管理というのは手取り足取りという意味ではなく、何をどこまでどの精度で実行しているか、進め方は誤っていないか、正しい交通整理が必要ということだ。

この意味において、今回学校の授業と部活動の休止が長期間に及んでしまったことの爪痕は大きい。

■症状41<社員が勤勉でない。とりわけ役員やエリート層が汗を流して働かない>

→読み替え「生徒が勤勉でない。とりわけ先生が勤勉でない」

・・・先を行く者は後ろに続く者へ背中を見せるべきである。家庭教師の体験授業で先生と生徒が1対1になった瞬間、大学生の先生が「ポテチ食おうぜ」とスナック菓子を出してきたという。まあ、時に生徒の関心を引くためにそういった方便も必要な時はあるかもしれないが、これは私がプロ家庭教師をしていた時に東京のかえつ有明という私立学校の生徒から聞いた実話で、その生徒自身がドン引きしてしまって申込を即断ったという。

■症状42<抜本的に構造を変えるべきものを、個人や狭い職場の改善の話にすり替える人が多い>

→読み替え「抜本的に指導法を変えるべきものを、生徒個人の資質や狭い範囲の勉強の話に矮小化してしまう」

・・・症状22に通じるが、生活態度のだらしない生徒を授業の時だけ「〇〇君、静かにしなさい!」と部分だけ注意していても、その生徒の根本が変わらないから延々同じ注意を先生は繰り返すだけで、結果として何の改善も得られない。そういった木を見て森を見ずではなく、じっくり全体を治療していくような漢方薬(東洋医学)のような大きな視点が指導者には不可欠である。

■症状43<組織に感動がない。表情がない。真実を語ることがタブーになっている>

→読み替え「成績の変化に喜怒哀楽がない。成績の変動を語ることに関心がない」

・・・症状1に通じる。成績上位の生徒ほど、成績表を食い入るように見つめて喜怒哀楽の表情を出している。

■症状50<狭い社内で同じ考え方が伝搬し、皆が似たようなことしか言わない。社外のことに鈍感>

→読み替え「井の中の蛙大海を知らずで、〇〇君よりマシだと言い合って、狭い仲間内で傷を舐め合っている。塾外、学校外、関西圏、全国レベルでの立ち位置で自分を見ることに鈍感」

・・・学校の成績はまあまあだと思っていたら、五ツ木模試を受けて愕然とした、という話はごまんとある。ただでさえ関西は関東よりも圧倒的に競争が少ない。だから関西の中でどうにかなるかな、で実際にどうにかなっているのだが、いざ関東も含めて全国規模の土俵に立ったときに、特に大阪勢は超上位層以外は全く歯が立たないだろう。