先週に引き続き、『V字回復の経営』(三枝匡・著、日本経済新聞出版社)の巻末「改革を成功へ導くための要諦50」より16点抜粋しながら、学習塾における読み替えをしてみよう。
■要諦1<改革チームの人選は、改革の成功・失敗に決定的な影響を及ぼす>
→読み替え<塾選び(先生選び)は、学力改善の成功・失敗に決定的な影響を及ぼす>
・・・生徒の状況によって大手進学塾が向いている場合もあるし、家庭教師の方が向いている場合もあるし、当塾のような個人塾が向いている場合もある。当塾より優れた塾は世の中にたくさんあるが、移転前の当塾が広告のキャッチコピーに使用していた「塾選びが、人生を変える。」という言葉は真実だと今でも思っている。
■要諦5<改革リーダーは、初めからある程度「最悪のシナリオ」を計算しておく>
・・・例えば「今回の定期テストはあえて本人の取り組みを静観しよう、その場合は成績がここまで下がるだろう」といったシュミレーションも指導者としては常に持っている。何が言いたいのかというと、一人の生徒を注視することにおいて、良くも悪くも「想定外」の結果が出ることはまず無いということだ。
■要諦6<経営行動は、厳しい「現実直視」と問題を「自分で扱える」大きさに分解することから始まる>
・・・得点は平均点によってその価値が異なるので、「偏差値」または「順位」という客観的な数値を直視することが大切。その上で「勉強しなさい!」「こんな成績でどうするの!」と子供を叱るのではなく、じゃあ目の前の生徒が今日何をすればよいのか、という具体的かつ詳細な教材を提示することが重要。
その生徒にとって空回りせず、地に足が付き、着実に次につながるような教材を選択できるセンスが指導者にとって不可欠である。
■要諦8<解決策を探し出すには、社員が共有すべきコンセプト・理論・ツールをトップが示さなければならない>
・・・この塾通信であったり、当塾が大阪移転前に毎年夏に実施していた作文講座はこの類であろう。(今年は実施できるか?)
■要諦11<「組織の再構築」と「戦略の見直し」はワンセットで検討することが不可欠>
→読み替え<「勉強の仕方の見直し」と「方針の見直し」はワンセットで検討する>
・・・部分は常に全体と連動していなければならない。なので、日頃の指導、保護者の方との面談内容、学校の状況、進路の検討が有機的に関連しなければならない。
■要諦14<「強烈な反省論」は「改革シナリオ」の出発点であり、裏腹の関係にある>
・・・現状の偏差値と順位を直視する。それが全てのスタートになる。
■要諦21<計画を組む者と、それを実行する者は同じでなければならない>
→読み替え<担任と授業担当者は同じでなければならない>
・・・その生徒に対して現状分析をする者と、教科指導を行う者は同じでなければならない。でないと、担任は実現性の薄い机上の空論を語ってしまい、授業担当者は現状にそぐわない、速度・レベル・内容が空回りした授業を行ってしまう。
■要諦23<人々に「強烈な反省論」を迫るには、徹底的な事実・データに基づく追い込みが不可欠>
・・・偏差値、順位といった客観的な競争軸で今の自分の立ち位置を把握することが重要。そのために模試がある。
■要諦26<基本に忠実な組織を「愚直」に作っていけば、会社は元気になる>
→読み替え<基礎力を愚直に養成していけば、学力は上がる>
・・・高校受験の場合、基礎力のある生徒は中3の秋以降も成績が上がるが、基礎力の無い生徒は秋以降に成績のグラフが上がったり下がったりの乱高下を始める。
■要諦27<営業マンの頭の中をいつもスッキリさせておく。彼らの心理的集中を確保することに留意する>
→読み替え<生徒の頭の中をいつもスッキリさせておく>
・・・つまり指導側による「交通整理」が大切だと言っている。「あれもこれも」と頭の中をモヤモヤの状態にさせない。野球の名選手が必ずしも名監督にならないのと同じように、指導者はコーディネーターの素質が求められる。「あれもしなさい、これもしなさい」と複数の指示を一気に浴びせかけるのは生徒のパンクを招く。
■要諦28<戦略の内容よりも、トップによるしつこいフォローのほうが大きな影響を与えることが多い>
・・・これは既出。
■要諦29<戦略指針を与えても、その実行をモニターするシステムがなければ戦略は「骨抜き」になる>
・・・どれだけよい教材であっても、素晴らしい宿題であっても、秀逸なインターネット教材であっても、チェック機能が同時に動かなければ何の役にも立たない。教材の与えっ放しはダメ。宿題の出しっぱなしもダメ。先週の「症状38」と同様。
■要諦32<「強烈な反省論」と「解決案」は抱き合わせで発表するのが常道>
・・・何がいけないのか、どうすればよいのか。問題点と着地点を両方見据えた上で指導に当たる。保護者の方との面談の際も、着地点が見えないまま面談を実施することもあるが、その場合は面談の中で着地点を見い出すようにしている。
■要諦34<いったん改革をスタートさせたら、改革者は徹底的に意思を貫徹する>
・・・これは指導者も生徒も同じ。前向きな方針転換、マイナーチェンジは欠かせないが、一度やるぞと決めたことに対してブレてはいけない。
■要諦42<改革1年目に現れる劇的な成果の半分以上は、社員の「やる気」の高まりによるものが多い>
→読み替え<入塾当初に現れる出来の良さは、生徒の当初の火事場の馬鹿力によるものが多い>
・・・入塾当初の生徒は、緊張感が残っているから授業も宿題もそれなりにこなせることが多い。問題は、2ヶ月、3ヶ月と経過していくうちに「油断」が始まって「緊張感」が薄れることだ。そしてだんだんと不注意のミスが多くなり、その生徒の本来の素性(馬脚)が見えてくるようになる。
だから、この「火事場の馬鹿力」が特別な力ではなく、いつも発揮できる力になるように、油断と緊張感の薄れ、つまり「甘え」を抜いていかなければならない。
■要諦49<沈滞企業では競争の悔しさや痛みを感じる機会が少ない。元気な組織は感情の起伏が激しい>
→読み替え<成績の低い生徒は競争の悔しさを感じることが少ない。成績の高い生徒は競争に一喜一憂している>
・・・中学生・高校生の勉強の世界というのはまさに社会人の仕事の世界と何ら変わらないじゃないか、ということになる。