大阪府立高校入試<数学>の研究

どこの自治体でも、公立高校の入試は1年度で1種類が標準であろう。
ところが大阪府の場合は、英数国に関して「特別選抜でA,Bの2種類」「一般選抜でA,B,Cの3種類」と合計5種類の入試問題を用意している。

これは大変親切というか、贅沢というか、過保護、やり過ぎとも言える措置で、
私立1.5次入試の存在といい、大阪独特の入試制度である。

この5種類の入試問題を学校別に大きく分類すると(目安)

◎一般C問題=文理学科(難関校)
◎一般B問題=普通科、国際・商業・工業・農業系専門学科、総合学科(五ツ木SS38以上)
◎一般A問題=普通科、商業・工業・農業系専門学科、総合学科(五ツ木SS37以下)

◎特別B問題=芸術・体育系専門学科
◎特別A問題=エンパワメントスクール(学び直し)

となっている。

解く人によって個人差があるだろうが、私の所感では5種類の難易差は以下の通り。

(易)<特別A> ● <一般A> ● <特別B> ● ● ● <一般B> ● ● <一般C> (難)

「●」は距離を示す。<一般A>と<一般B>の間が握りこぶし4個分だとすれば、<一般B>と<一般C>の間は握りこぶし2個分のように難易度が離れているという意味。

ここで、以前当塾が立地していた千葉県に照らしてみると、千葉は概ね1年度1種類の入試で、大阪に当てはめると

<特別B> ● ● ● <一般B> ● ● <一般C> ● ● ●

の長い難易幅という印象。
上記の<特別B>から<一般C>を更に超えて ● ● ● のレベルまでが一つの入試問題に構成されて、千葉県の中3生が同じ問題を受験していたことを考えると、千葉県の公立高校入試は学力の厳しい生徒はほとんど得点できず、比較的中程度以上の学力の生徒にしか太刀打ちできない問題であることが分かる。おまけに右の ● ● ● が示すのは、「正答率0.5%」といった、超難関校を受験する生徒でも解けないような奇問が出題されているということ。

そういう意味では、大阪では奇問は極めて少ないといえる。

次に、大阪の
<特別B> ● ● ● <一般B>
の難易差において、なぜ以下の分け方をするのかという疑問。

◎一般B問題=普通科、国際・商業・工業・農業系専門学科、総合学科
◎特別B問題=芸術・体育系専門学科

芸術・体育系は知識よりも感性の学科だが、国際・商業・工業・農業は少なくとも語学・数学・理科等の素養が必要だったりする。
ということを踏まえれば、「芸術・体育系」が易しい<特別B>で「その他」が難度の上がった<一般B>に分類されているのはとても親切に制度設計されていることが見て取れる。

話戻って、過去問を練習する順序について。

(易)<特別A> ● <一般A> ● <特別B> ● ● ● <一般B> ● ● <一般C> (難)

の順に難度が上がるため、受験勉強するときは上記の順で下から積み上げるように練習していくのが良いだろう。

難関校の文理学科を除いて、多くの生徒は<一般B>を目指して勉強することになるが、
大阪府の<一般B>問題は毒気のある奇問がほとんどなく、普通に地道に頑張れば解けるよね、という問題が大半である。

普通に地道に頑張って、というのは、
【正確な計算力(1か所の計算ミスが命取りになる)】
【スピード感(全国の公立入試・模試で頻出される定番問題に慣れる)】

という風に、ひらめきや発想力よりも「場数」と「丁寧さ」で解答の品質を上げる訓練を積んでいくということだ。

とにかく、ややこしい問題文の知能検査のような問題、新傾向の問題も少なく、「確率」の問題で場合の数をひとつ見落としていたとか、引き算の繰り下がりひとつがその後の致命的なミスにつながったとか、そうならないよう図形に角度を一つひとつきちんと書き込むなど、真面目で堅実な生徒ほど向いている入試といえよう。21世紀型というよりも、従来型の古典的な入試問題といって良いかもしれない。

<一般C>もそういう意味ではすこぶる難しい訳ではない。
教科書の応用問題で出題される因数分解であったり、2次関数のグラフに座標をきちんと書き込むとか、「6」と「b」を間違えないなど、地道な情報処理で得点を積み重ねていく入試問題である。

C問題らしいのは、「1は素数か否か」といった基礎知識を突然問われる場面、「三角形の内角と外角の関係」がパッと思い浮かぶか、算数を使って碁石の数を推定できるか、といった経験値(学年横断力・数学に関する総合力)を問われることで、やはり奇をてらった出題ではない。

2019年度の一般C問題、最終の大問3(2)で「屋根型の立体の体積」を求める問題が出題されている。これもC問題の中で最も難しい問題だが、当該公式を知っているかどうか、知らなければ地道に三平方の定理を使って高さや相似比を見いだしてひたすら書き込みながら立式することで解ける問題であったりする。つまり、凄い問題が解けて凄い学校に行けるのではなく、正確さと地道さとスピード感の三拍子が揃って大手前高校や天王寺高校に合格していく、というイメージである。