マネジメントへの挑戦(一倉定・著)

事業再生のプロ、三枝匡先生の著書を紹介したのが3年前。

企業再建の手法は、生徒の学力再建に関する手法と相似している。

伝説の経営コンサルタントと呼ばれる一倉定先生(1918-1999)の復刻本から読んでみよう。

—(抜粋ここから)
▼時間を有効に利用する方法
準備に時間をかけることである。時間を有効に利用しようとするときに、われわれはよく準備の時間を切りつめようとする誤りをおかしがちである。これは、けっきょくは、時間を浪費することになる。

筆者は戦争中、自動車隊に属して中国大陸で数年を過ごしたことがある。悪路で車がめりこんだり、みぞに落ちたりしたときに、筆者はこれを引上げるためのほとんどの時間を引上げ準備に費やした。こうすると、引上げ作業そのものは、アッというまにすんでしまうのである。はじめのうちは、「そんなに準備しなくとも」といっていた部下たちも、しまいには、けっきょく、そのほうが早いということを悟った、という経験をもっている。

会社の仕事として同様である。急ぐときほど準備に時間をかける。そして、行動に移ったなら、一瀉千里に仕上げてしまうのである。(P.158-159)
—(抜粋ここまで)

孫子の兵法「戦わずして勝つ」である。
「戦わずして勝つ」というのは「戦ったら必ず勝てるように準備せよ」という意味。完璧に準備が整えば「戦わなくても既に勝った状態だ」と言える。

つまり、テストを受けてから慌てて問題を解くのではなく、事前にテスト勉強がしっかり出来ていれば、テスト本番でも「ああ、またこの問題か」と短時間で・ミスなく・楽勝に済ますことが出来るのだ。

—(抜粋ここから)
▼人の長所を利用せよ
プロ野球、かつての強打者、青田氏のバッティング・コーチとしての指導方針は、「長所を伸ばして、短所を問題にしない」ということだと、スポーツ紙に紹介されていたのを読んだことがある。至言である。

人はだれでも必ず弱点・短所をもっている。そして、大部分の人はつねに弱点あるいは短所を問題にしている。

しかし、人の短所を問題にしてみても、そこから何も生産的なものはでてこない。真に生産的に利用できるものは、その人の長所のみである。とするならば、人の長所をみつけ、これを有効に利用することを考えるのが最上である。(P.164-165)
—(抜粋ここまで)

学習塾の場合は「底上げ」も必要になるので、短所の部分に注目する場面もあるが、一方で「どの分野であれば輝けるのか」、またはネガティブな出来事が起きた時に、その生徒が示したプラスの部分は何なのか、という正反対からの視点を私自身持つようにしている。いずれ具体例を挙げて示すとしよう。

—(抜粋ここから)
▼知識にかたよりすぎた教育
実技訓練や一部の識者の教育をのぞけば、現在の教育訓練はあまりにも知識・技術にかたよりすぎている。小手先の技巧にとらわれすぎている。

「知識のみ身につけることは、いたずらに人間をあさはかにするのみである」(田辺昇一)のだ。学校教育の目的は”人間形成”である、とはっきりうたわれている。企業内訓練の目的も”人をつくる”ことが目的であることはまちがいない。

それなのに、それでもか、これでもかとばかりに”やり方”を教えこむ。ノウハウものの氾濫である。かんじんの”精神”はそっちのけである。

(中略)

たんなる知識・技術ではなく、魂、知性、知恵、洞察力、判断力、決断力、行動力、といったものに重点をおいた教育をしなければならないのである。まず、”人間形成”に重点をおいた教育をするよう、指導者、教育者自身が自分を教育すべきであろう。

自分を教育する能力が、すなわち人を教育する能力であることを認識することからはじめなければならないのである。(P.212-215)
—(抜粋ここまで)

精神論を説いているように見えるが、「知識・技術」が外部からインストールするものだとすれば、「魂・知性・知恵・洞察力・判断力・決断力・行動力」は内面からの自発を促す部分なので、人間の最終的に残る核の部分を言っている。

当塾も勉強を通して、知らず知らずのうちに後者を主軸に置いている面がある。

—(抜粋ここから)
▼理想像のみ教えるのは危険
教育訓練とは、講師が自分のうん蓄を傾けて、相手に知識を植えつけることではない。

欠点だらけの、ドロドロによごれた現実に対処して、どうやって自分自身を高め、会社に貢献するかの道をみつけてやることなのだ。知恵と勇気を身につけさせてやることなのだ。(P.216)
—(抜粋ここまで)

中学1年の「正負の数」を扱う時に、生徒が考える前に飛び道具のような計算方法を教えていたのだが、最近は飛び道具を教えずに、数直線を用いた愚直な方法で導入部分の計算を解かせるようになった。

それは「インストールすれば済む」教え方は即効性があるが、長期的に見て柔軟性のない石頭を育ててしまうと危惧するようになったからである。

「成績を上げること」が学習塾の存在意義のひとつであるから、あまり哲学的な境地に私自身が入り込むつもりもないが、「ドロドロによごれた現実に対処しながらも自分自身を高める力をつけること」が、ひいては当塾で、他塾で上がらなかった成績をも上げてきたことにつながっているのは間違いないだろう。

※これまでの効果測定

※今回の出典
『マネジメントへの挑戦【復刻版】』
(一倉定・著、日経BP)

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