出発時刻になると、飛行機はボーディングブリッジ(搭乗橋)を離れて誘導路に進む。誘導路でトーイングカー(牽引車)を切り離すと、地上整備のスタッフが離陸準備の整った飛行機に向かって手を振る光景を見たことがあるだろう。
これには2つの意味があり、「客を見送る」だけでなく、「出発の最終準備が整った」ことを機長に知らせる役割もある。
大体、片手で大きく手を振り、しばらくするとお辞儀をして一連の合図が終わるのだが、昨日の伊丹空港。頭の上で大きく手を振るスタッフがいれば、両手を前方に突き出して、まるで家族との別れを惜しむようにバイバイ、と小刻みに手を振ってくれるスタッフもいた。
感染症の影響で幹線以外の地方路線は多くが欠航し、空港にも人は少なく、航空会社も厳しい経営状況にさらされている。
今までは業務の一つとしてスタッフが「手を振る」、客は当たり前の光景として「それを見る」ものであったが、昨日は整備スタッフの姿に万感の想いが籠っていたように思えてしまって、私は胸がいっぱいになってしまった。
一つひとつの行為をよく考え、一つひとつの動きに心を込めることはとても大切である。明日も同じ日常が訪れるのかと思いきや、球磨川流域の豪雨災害のように一晩にして生活が一変してしまうこともある。