出張のときの定宿にしていた宿泊先。
スタッフとも顔なじみになり、私は定点観測のような形でスタッフの異動や変遷を見ていた。
興味深かったのは、「気が利くな、愛想がよいな、積極的だな」と感じさせるベルスタッフ(トランクケースのような重い荷物を運んだり、客を案内する係。真冬でも外に立ちっぱなしで客の出迎えをすることもある)はフロントへの昇格も早く、「なんかとぼけているな、動きがイマイチだな」と感じさせる者は何年経っても同じ配置のままであった。先の熊本地震のあと半年くらいは余震でエレベーターが止まることも頻繁だったので、非常用階段でトランクを両手に慌ただしく運んでいたのもベルスタッフである。
ホテル業界は拘束時間が長い割には賃金が低く、深夜勤務など生活のリズムが一定にならないため、見た目の華やかさの割には離職率が高い。一般の離職率が3割としたらホテル業界は5割を超えるといわれている。実際、私から見ていてもスタッフの異動は激しく、このホテルでは毎年4月に大量に新卒採用をしているが、事業拡大しているわけでもないのに何故だろうと不思議だったのが、この業界の離職率の高さを知って腑に落ちたものである。
さて、このような過酷な職場でも頭角をあらわし生き残っていく者がいる。特に先述の三拍子「気が利くな、愛想がよいな、積極的だな」の揃った者は、繰り返しの話になるがベルからフロントへの昇格も早い。そして、こういった者は客に対する食い付きも強い。「○○様!お久しぶりでございます」「○○様!新名所の○○は行かれましたか」・・・ちょっとした以前の会話を覚えていて、どんどん食い込んでくる。ある種の鼻息が荒いとも言える。
この話は、好成績をたたき出す営業マンの仕事術にも通じてくる。
更に学習塾に置き換えると、実力を伸ばす生徒の条件にも合致してくる。「気が利く(自分の頭で考え、行動している。丁寧に道具を片付け、使ったあとの机が綺麗)」「愛想がよい(先生の目を見て話し、自分の考えを述べながら相手の話も聞く。コミュニケーション能力が高い)」「積極的(指示されて行動するのではなく、必要だと思えば例えば自発的に英文の和訳を書く)」
生き残る社会人と生き残る生徒は、その本質が全く同じだということが分かる。