馬鹿につける薬は無い

中2の末に入塾してきた男子生徒がいた。現在は中3である。週末はクラブチームで野球をしているということで、その日程に配慮しながら授業を開始することになった。

ほぼ100%の生徒がそうなのだが、学校でどのような気質を表している生徒であっても、私の前では少なくとも従順な姿を見せる。私は上からでも下からでもなく、生徒の目線で、かつ紳士的に生徒に接することを心がけているからかと思うのだが、この生徒もその例に漏れなかった。

多くの生徒がそうであるように、この生徒も数学は中1の「正負の数」、英語も中1の「be動詞」から開始した。最初の1ヶ月はまあまあ順調だったが、次第にほころびを見せ始めた。連絡ファイル・宿題忘れ。当初は自主的に自宅に取りに帰ろうとしていたので、私としては寛大に見るようにしていた。しかし、同じようなことが複数回起こるようになり、その後神尾塾としては前代未聞の事件?が発生した。

ある日その生徒が持参してきた宿題を見ると、どう見ても別人の女子生徒が書いたとしか思えない答案となっていたのだ。生徒に問いただし、その日の授業は中止して帰宅させた。1時間後、生徒が泣きながら謝りに来た。その答案は学校で塾とは関係のない他の女子生徒に解かせた、と白状した。私は今は出来る限り怒らないようにしているので(怒ると"本気"で怒ってしまうので)、冷静に話を進めるようにしていたが、生徒が自発的に泣いて謝る行為をしてきたため、泣いて謝るぐらいだから反省して改善出来るだろうと私は考え、この件は許すことにした。

この日の夜は親を呼んで一部始終を話し、「今回の件でも充分退塾にするつもりだったが、本人が自発的に謝罪出来たため今回は許す」旨を伝えた。

さて、その2日後。当該生徒が17:30からの自習に来ない。指導者によっては電話を掛けて「今から来い!」と言うのだろうが、私は塾規約でも宣言している通り、そういうことはしない。夜22時を過ぎても何の音沙汰も無かったため、母親に連絡を入れた。すると、「20時過ぎにいつも通り塾から帰ってきましたが…」と返ってきた。どうやら、塾に行ったフリをして外で遊んでいたらしい。

いくら生徒とは言え、馬鹿につける薬は無い。即刻退塾となった。

私は母親に伝えた。この生徒はスマートフォンを所有しているのだが、「そのスマホを本人の目の前で金づちか何かで粉々に砕いてやってください。嘘をつき、人を裏切ると、自分の大切なものが一つずつ消えていくことを学習させなければならない」と。

たぶん、この親は最後までそれを出来なかったであろう。それが出来ないことの繰り返しだったから、このように繰り返して人を裏切れる人間に育ってしまったのだろう。これがこの話の結論だ。この話に限って言えば、幼少期から親が筋を通すべき所で筋を通さなかったこと、毅然とすべき所で毅然としなかったこと。この対処の悪さが子供を崩してしまったように思う。神尾塾には学校でいわゆる「荒れている」タイプの生徒が来たりすることもあるが、ここまで本質的に崩れてしまっている例は見たことが無い。残念だが、この生徒はどこへ行っても同じことを繰り返すだろう。

塾を営んでいて、最も空しさを感じる出来事である。