かつて家庭教師をしていた頃の話だが、家庭教師といえば休憩時間に家庭からお茶とお菓子が出てくることが一つの定番となっていた。
例えば一戸建ての家庭。2階の生徒の自室で授業を行っていたとする。大体2時間の授業時間のなか、中盤の1時間を過ぎた頃になると1階から階段を昇る足音が聞こえてきて、部屋のドアを生徒のお母さんがガラリと開ける。
「お茶をどうぞ…」
差し出されたお盆の上には生徒と私、2人分のお茶とお菓子が盛られている。
生徒は早速茶菓子に手を出し始めた。生徒にとってみれば何の悪気もなく、「自分の家庭から出てくるものだから食べて何が悪いのか?」という感覚だろうし、むしろ「先生もどんどん食べちゃって下さい」、という様子であった。
家庭教師の経験を重ねて年数が経った頃、家庭の方が茶菓を出して下さっても、私はお母さんの姿が見えなくなった頃にすかさずお盆ごと部屋の隅へ退けるようになった。また、万が一生徒が茶菓に手を出すようなことがあっても、「授業中だよ?勝手に何やってるの?」と言って茶菓への手出しをやめさせた。
結局、授業の主目的は集中して勉強に取り組むことであり、ここでお茶やお菓子が出てくると完全に作業の腰を折ってしまうことになる。
これは個人差はあるだろうが、例えば一つ成し遂げたい仕事があったとして、その景気づけにスタバのコーヒーでも飲みながら作業にかかろうか!という気分になったとする。しかし、本当に集中している時は飲み物とか食べ物は不要であって、よほど喉が渇いた時以外は惰性でそれらに手を出してしまっていることが多い。
なので、集中したい時の飲み物は水だけ用意しておけば充分で、それ以上の飲食は集中力を妨げてしまうということなのだ。ハングリー精神という言葉もあるが、お腹が空いているくらいがよい仕事を生み出せるのだ。