青山常運歩~中曽根康弘対談集

中曽根さんといえば、私が子供の頃の総理大臣で、現在も95歳の現役で活動しておられる。中曽根さんが週刊誌の連載で各界の著名人と対談をしたものがこの本である。一部を抜粋してみよう。

◎長嶋茂雄(読売巨人軍終身名誉監督)
長嶋「プレーに華麗さを加える練習もやりました。今の選手と違い、自分が納得するまで、血みどろになって練習しましたよ。表には見せませんでしたけど…。」

長嶋さんであっても、天才といわれる陰には、人並み以上の努力があったということだ。

◎渡辺恒雄(読売新聞グループ本社会長・主筆)
渡辺「思想の貧困は、戦争体験が薄れていることもあると思う。中曽根さんが軍隊に行く時、隠し持っていかれたものは何でしたか。」

中曽根「聖書と茶の本『茶味』、そしてシューベルトの「冬の旅」のレコードです。」

渡辺「僕はカントの『実践理性批判』、ブレイクの詩集、『ポケット・イングリッシュ・ディクショナリー』。戦争に負けると確信していたから、捕虜になった時米兵とうまく付き合うために辞書を隠し持っていた。ばれたら銃殺だったかもしれません。」

“老害”の象徴のような形で扱われることの多い”ナベツネ”氏だが、氏が今なお第一線で不動の現役を続けていることには、ワケがある。一時期の”清武の乱(元球団社長のクーデター)”にも動じず、磐石というかスケールの違いをまざまざと見せつけられた感じがする。

この対談においては、上記抜粋の、戦争に持っていったものは何か、という部分。とてもアカデミックで、若いときにこういう勉強、時間を使っていた人が現在の高齢の上位層にいるならば、今の私、私自身は一体何を学んで齢を重ねるべきなのか、ということを重く考えさせられた。

「聖書」「茶味」「シューベルト」「カント」「実践理性批判」なんて言葉がサラッと出てくるこの人たちの重厚な土台、基盤に敬服せざるを得ない。また、若い私達にとって、「そんな甘ちょろい勉強をするのではない」と大きな喝(かつ)を入れられた気持ちになる。