大阪都構想の住民投票

大阪市と24に区分された行政区を廃止して、4つの特別区(区長・区議会議員を選挙で選べるようになる)に再編するか否かの「大阪都構想」2回目の住民投票。昨日11月1日に投開票が行われ、反対多数で否決された。

以下は私が感じたこと、学んだこと8項目。

【1】女性を味方につけたい
商売にしてもサービスにしても、新しいことを始める時は男性よりも女性を味方につけることが戦略の定石と言われている。

私は2週間前に期日前投票に行ったが、区役所のエレベータに乗り合わせた60代くらいの女性2人組が「断固反対やわ」と息巻いていた。また、投票日前日の10/31(土)朝、谷四駅から本町通を塾に向かって歩いていると、「反対」のプラカードを掲げてデモ行進している年齢層高めの女性集団とすれ違った。

この女性一人ひとりに賛成派の真意を説き、理解と納得を得ていかなければ「賛成派」を増やすことは難しいだろうと思った。私は神社で同じような年齢層の方と話す機会が多いが、たまたま「トランプが勝つか、バイデンが勝つか」というアメリカ大統領選挙の話題になって、うち一人から「トランプは独裁者だから戦争に突き進んで危険」という意見が出てきた。

そういった人は、マスメディアやネットなど様々な情報に触れる世代ではないため、立体的に俯瞰するのではなく、第一印象でその対象物の良し悪しを判断しやすい傾向があるように見える。相手の理解を獲得して行動まで導くことを「落とし込み」というが、この落とし込みは反対派の方が、日ごろの地域ネットワークを生かして二枚も三枚も上手だったと言えるだろう。

【2】ツリーとセミラチスの話
クリストファー・アレグザンダーというオーストリアの建築家が1965年に『都市はツリーではない』という論文を発表している。この話はさまざまな場面で応用できるので知っておいて損はない。

下記サイトの図が分かりやすい。

◎人工の都市は「ツリー」型
◎自然の都市は「セミラチス」型

としている。
人間が頭の中で考えて形にするものは、シンプルに枝が広がる構造だが、長年かけて自然がジワジワと築くものは重層的・複合的・複雑である。今回、賛成派は論理的な「ツリー」型のPRに留まり、「セミラチス」型のPRにまで深化させられなかった。

つまり、国会で「大都市地域特別区設置法」を可決し、府議会・市議会で「特別区設置協定書」を可決し、住民説明会を対面・オンラインで行い、公報も発行して、流れとしては論理的で筋が通っているが、それだけでは生身の人間には届かないということだ。利権や陰謀論を言い出したらキリがないが、理屈よりも感情において、いわゆる「おばちゃん」を動かす力はどちらにあったか。

【3】孫子の兵法「戦わずして勝つ」
過去の塾通信で何度も書いてきたが、「戦わずして勝つ」は学校の定期テストでも、入試でも通用する。「戦わずして勝つ」とは、戦って初めて勝つのではなく、戦う前から既に勝っていなければ「勝てない」というものだ。

告示前は賛成派が優位と思われたが、告示後は反対派の活動がすさまじく、夕方になると本町通でも「反対!」の街宣車の声が塾内まで頻繁に聞こえてきたほどだ。加えてテレビメディアも反対派寄りの報道が比重を占め、最後の1週間はYahoo!ニュースのトピックでさえ反対派に偏っていたように思う。

色々な駆け引きや裏事情も現実社会なので有るだろうが、それも含めて投票日に蓋を開けて見なければ結果が分からない、というのは孫子の兵法に反しているはずである。

【4】シングルイシューは危険
浅田均氏と松井一郎氏が当時の自民党から離脱して立ち上げた政党が大阪維新の会。維新が国政に進出したのも「大都市地域特別区設置法」の国会での立法が目的であって、大阪維新の会は「大阪都構想」シングルイシュー(単一論点)の政党だと私は理解している。

個人でも団体でも、シングルイシューが潰れた時の「次どうするか」が即座に出てこなければ、イシューなき個人・団体の脆弱さが浮き彫りになってしまう。受験というただ一点の突破を目的としていた者が、受験後に燃え尽きてしまってその後の人生のモチベーションが座礁してしまうことに通じる。自民党が比較的安定しているのはそのdiversity(多様性)ゆえだろう。

【5】大阪は東京とダブルエンジンになるか
大阪市民は「競争力を激化させる大阪」よりも「いちローカル都市としての大阪」を選択した。大阪と東京がダブルエンジンとなって日本をリードしていく、といった主張も賛成派にはあった。

によると、生み出す金額を示すGDPは「東京104兆円」「大阪で39兆円」、東証1部上場企業も「東京1,161」「大阪271」。梅田周辺を見ていると高層ビルが建ち並び大都会の様相だが、生で見る東京都心のスケール感とは比較にならない。従って、ダブルエンジンを目指すのは理想でしかない。

大阪の競争力を高めるということは、世界の中で大阪を矢面に立たせることでもある。G20やIR、万博はその例だ。今は競争社会なので「表に立ち、競争の風雨にさらすこと」に違和感を持たない時代だが、以下の見方を書いてみよう。

三重県に伊勢神宮がある。伊勢神宮は「内宮(天照大御神=太陽の神)」「外宮(豊受大御神=食物の神)」が正宮とされ、この他の123社を含めて全125社の総称が「(伊勢)神宮」である。

123社のうち、三重県志摩市に伊雑宮という別宮があって、むしろ伊雑宮が内宮の本体ではないか、という説がある。表向きには内宮が伊勢神宮のトップとされるが、実際には内宮は観光客を寄せ付けるための「客寄せパンダ」であり、それによって本体である伊雑宮をひっそりと汚されない存在として守っているというのだ。(※この話は偽書(インチキ)説もあるので話半分で気楽に聞き流して欲しい)

仮にこの考え方を大阪に適用するなら、東京が目立つ「客寄せパンダ」であって、大阪は京都・奈良・和歌山と共に隠れた「伊雑宮」の存在で良い。しかし、実際には「けいはんな地域(学研都市)」に日本郵便や三菱UFJの事務センターが開設され「データセンター」という守られるべき場所としての意味で、日本の中枢を担う企業が着実に関西に軸足を増やしつつある。

住民投票によって大阪と東京の「対等なダブルエンジン」を否定したことは理に適っていると言えるのかもしれない。

【6】日本が世界最古の国である理由
「日本が世界最古の国」だという実感を持たない日本人は多いが、ギネスブックにも認定されている事実である。

さて、歴史をさかのぼって
江戸8代将軍の徳川吉宗には「長男・家重」「次男・宗武」がいて、兄はいわゆるバカ殿、弟は立派な人物であった。弟である宗武の子は寛政の改革を行った老中・松平定信である。さて、家督相続になると吉宗は長男の家重に9代将軍を継がせた。

Wikipedia「徳川家重」から抜粋してみる。

家重の将軍職継承は、才能云々で次男などに家督を渡すことが相続における長幼の順を乱すことになり、この規律を守らないと兄弟や徳川御三家などの親族さらに派閥家臣らによる後継者争いが権力の乱れを産む、と吉宗が考えたとされる。吉宗自身が徳川本家外から来た人間であり、将軍としての血統の正統性が確実ではなかったため、才覚云々ではなく「現将軍の最長子が相続者」というルールを自らが示し守らねばならなかったこと、吉宗自身が将軍後継争いの当事者であったことが背景にある。

吉宗自身の事情はあるにせよ、日本に国を転覆させる革命が起こらなかった理由の一端はここに見えるのではないか。「才能云々の問題ではない」というのである。つまり、競争力を高めて能力主義を許してしまうと、革命が起きる土壌を常に与えることになり、革命が起きるということはその都度国が疲弊して、最終的には国が滅ぶということなのだ。

これについて、競争主義、能力主義はいったいどうなんだ、と上智大学名誉教授の故・渡部昇一先生。ちょうど昨日千葉の勉強会で使用した資料が面白かったので以下に貼っておく。あくまで断片をつまんだだけなので、気になったら膨大な事例と根拠を示している本書を読んでみてほしい。中高生には難解だが、酸いも甘いも経験した大人ならば腑に落ちる箇所と気づきがたくさん出てくるだろう。

(※神社のお知らせ部分は無視して下さい)

この本から分かることは、「競争」と「潔癖」は必ずしも物事を善に導くものではないということ。古代都市・難波京が現代の大阪まで脈々と生き続けてきた、そこに「ユルさ」が常に介在していたのではないか。「ユルさ」こそ不滅のための原動力だとしたら、「改革だ」「腐敗だ」と叫ぶことは、長い歴史のスパンで見れば「若気の至り」でしかないのかもしれない。

【7】高齢化は原因ではない?
今回の反対多数の原因を高齢化と見る向きもあるが、果たしてそうだろうか?

◎住民投票1回目(2015年5月17日)
 反対705,585票(50.4%)
 賛成694,844票(49.6%)

◎住民投票2回目(2020年11月1日)
 反対692,996票(50.6%)
 賛成675,829票(49.4%)

昨夜の会見で松井市長が「皆さん悩みに悩み抜いて」とおっしゃっていたが、この結果こそが個人レベルの内面の葛藤の数字、つまり<民意>そのものだったのではないだろうか。高齢化や反対派マスメディアの誘導といったことは、大きな要因ではないのかもしれない。

【8】新・天王寺区の一人負け?
実は9月26日、大阪市中央公会堂での第1回目住民説明会に参加してきた。この日の共同通信の報道写真をよく見ると、私も写っている(笑)

この日に配布された資料から、新しい特別区の「総生産額+商業販売額+工業出荷額」の合計を計算すると

◎淀川区(新大阪・夢洲ほか)9兆1,305億円
◎北区(梅田・京橋ほか)21兆882億円
◎中央区(心斎橋・なんば・大阪城・南港ほか)30兆4,306億円
◎天王寺区(天王寺・あべの・鶴橋ほか)3兆5,168億円

で天王寺区がダントツで一人負け。淀川区は新大阪と夢洲の開発がこれから活発化するが、天王寺区は本当にハルカス周辺だけだ。
税収の少ない自治体が苦労するのは、当塾が以前あった千葉県鎌ケ谷市がそうで、「税務署は松戸市」「保健所は習志野市」「年金事務所は市川市」「ハローワークは船橋市」という風に、税収の多い周辺自治体に依存して生活していると言えなくもない。

ハーゲンダッツが出る、出ない、どころの騒ぎではなかったのかもしれない。

本稿は特定の政党に与するものではなく、住民投票を通して得られる普遍的な「学び」に注目して記したものである。

最後に、全ての関係者の方々に心から「お疲れ様でした」と労いたい。
賛成派、反対派が分断されることなく、無駄を解消し、魅力ある都市として府市に関係なく大阪が前進するよう、私も住民のひとりとして自分の持ち場で出来る役割を果たしたい。

この記事を書いた人