早稲田摂陵高等学校(茨木市)

■概要
大阪モノレールの彩都西駅から徒歩15分、スクールバスはJR茨木、阪急茨木市、千里中央、北千里、石橋から発着。
昭和37年(1962)日本紡績協会が全寮制の大阪繊維工業高校を設立。昭和49年(1974)普通科の摂陵高校に改められ、平成21年(2009)早稲田大学の系属校となり、翌年には従来の男子校から共学化。同一法人(早稲田大阪学園)下には広域通信制の向陽台高校も設置されている。

■中学校の廃止
昭和60年(1985)に併設された中学校は、長らく1学年1クラスの入学者数低迷が続き、しかも関東からの入学者の割合が増え、地元大阪からの入学者増加も伸び悩んだため、令和2年(2020)度を最終として募集停止。

■高校コース編成
◎普通科A・特進(定員140名)
◎普通科B・スーパー特進(定員70名)
◎Wコース(定員35名)
◎吹奏楽コース(定員35名)

中学校廃止に伴って、2021年度より新たに開設されるのが早稲田大学系属校特別推薦枠(20名分)を持つWコース。本校の最上位コースに位置づけられる。

■吹奏楽コース
昭和32年(1957)に阪急百貨店の社員養成機関として「阪急少年音楽隊」が設立。その後「阪急商業学園」に改称されて、昭和48年(1973)には向陽台高校と技能連携。平成9年(1997)に男子から女子バンドに転換され、平成16年(2004)に向陽台高校へ移管。平成21年(2009)には更に早稲田摂陵高校に再移管された。本コースは女子限定。

「阪急少年音楽隊」はいわば学習塾のような位置づけ。そこから「阪急商業学園」でダブルスクールにより向陽台高校の高校卒業資格が取得できるようになって(※ダブルスクール=阪急商業学園と向陽台高校に同時入学する)、その後、向陽台高校への移管でダブルスクールが解消して通信制高校に。そして早稲田摂陵高校への再移管で全日制に移行するという、学習塾が全日制高校に進化を遂げたような、ある種のシンデレラロードとも言える変遷である。

本コースの最大の特徴は、マーチング。着席して演奏する一般的な吹奏楽スタイルとマーチングを併用しており、本コースはむしろマーチングの比重が高いかもしれない。当塾でもかつてマーチングを熱望してその道に進学した生徒がいたが、そういう生徒には最適と言えよう。

昭和32年(1957)宝塚大劇場における世界初のステージマーチングの披露を皮切りに、各種大会・イベントへ出場。朝日放送が建設した福島のザ・シンフォニーホールでの毎年の定期演奏会、3年に1度の東京ディズニーリゾート出演と海外遠征。高成績を獲得する目的よりも、観客のいる現場でどんどんマーチングを見せる志向。そのため、吹奏楽コースから音楽系大学に進学する者は1割から多くても2割に留まり、大多数は音楽とは関係のない分野へ進んでいる。

中学校時代に吹奏楽部に在籍していた者であれば入試における実技試験は十分こなせるが、吹奏楽未経験でも応相談で入学できる。1学年定員35名に対して2020年度は27名が入学。

■早稲田大学への進学
http://waseda-ad.com/wasead/waseda/fuzokukeizoku/
上記のサイトによると、

早大への進学率(推薦枠)は

<附属校>
◎早稲田大学高等学院(東京都練馬区)100%
◎早稲田大学本庄高等学院(埼玉県本庄市)100%
<系属校>
◎早稲田実業学校(東京都国分寺市)100%
◎早稲田高等学校(東京都新宿区)60%
◎早稲田渋谷シンガポール校(シンガポール)60%
◎早稲田佐賀高等学校(佐賀県唐津市)50%
◎早稲田摂陵高等学校(大阪府茨木市)10%

となっており、摂陵は他校に比べて大きく水をあけられている。(摂陵では2020年3月卒業者数279名のうち、早大進学者22名)
本校では2021年度から、早大への推薦枠40名(Wコース20名、A・B・吹奏楽コース20名)となり、新設のWコース(定員35名のうち20名が早大進学可)は早大への進学率の高さを売りにしている。

■関東からの入学者が多い
2020年度は高校1年から3年で全生徒数934名(男子570名、女子364名)。うち通学者が93.6%(874名)、寮生が6.4%(60名)。
寮生の内訳を見ると、関東が45%(27名)を占めている。これは、関東在住者で「早稲田大学に行きたい」と熱望する者が、本校に入学しているということ。

■まとめ
本校の理事長・校長は政経学部教授等を歴任され、現在早稲田大学副総長の須賀晃一教授。つまり本校自体が早稲田大学の直轄ということが分かる。ただ、須賀教授は東京のキャンパスを拠点にされ、普段は遠隔で本校業務に当たられているように見える。

その辺りから何となく、「大阪にある東京の学校、でも東京の学校ではない」といった微妙な浮遊感のような印象がある。早大の教育システムをフル活用した本校のカリキュラムは魅力的であるし、早稲田ブランドを存分に体感できる高校3年間となるだろう。ただし、それはあくまで東京にある早大からの直轄ということであって、本校独自の機動力が弱い印象を受ける。校長は現場に張り付いて専業で従事される方が本校の活力アップに繋がるかもしれない。

次に、本校の他大合格者数は「関関同立92名」「産近甲龍196名合格」(2020年春)となっており、学力的には産近甲龍の上位の位置づけにある学校と言える。産近甲龍よりも関関同立の合格者数が圧倒的に上回ったり、京大・阪大の合格を常連で出す状況になれば、「早稲田を視野にいれようか」という生徒も増えてくるだろう。

その意味では、現在の本校の学力的な位置としてはリスクを冒してわざわざ遠い早大を狙うよりも、大阪近郊の国公立や私大に無難に進学したいニーズの方が上回るのであろうし、その辺りの「早稲田ブランド」に心が響かない顧客層を獲得せざるを得ない状況であるので、この隙を狙って、関東から「絶対に早稲田に行きたい!」と熱望する者が入寮を前提に本校へ入学してくるのだろう。関東の生徒にとってはお得といえばお得な話である。

関東に居る時に感じる「早稲田への熱狂」と、関西に居て感じる「早稲田の遠さ」のような温度差は私自身も強く実感するところであり、本校のこれからを見守っていきたい、という一言に尽きる。

(9月24日訪問)

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