興國高等学校(大阪市天王寺区)

まず、草島葉子理事長・校長のインタビュー記事。

当塾の大阪移転は2019年春であったので、当然本校の昔のことは知らない。他校も同様だが、今回本校について感じたことは率直に「人集めが上手い」「人の使い方が上手い」「雰囲気づくりが上手い」、つまり<組織づくりが上手い>ということだ。

昨夏、別の用事で本校を訪れたのだが、各部活のユニフォームを着た生徒が玄関に勢ぞろいして、私たち訪れた者を接待してくれた。接待というのは、靴の預かりから会場への案内といったホテルのベルボーイのような役割。

今回も同様に生徒たちが玄関に集結している。「おいおい、この時期に密はどうなんだ」とか思いながら昇降口の段差に近づいたら、私の靴預かり担当の生徒が「ち、近いです…」と。「いやいや、段差を上がらなければスリッパ履けないじゃないか、君の方が近いんだよ」とか思いながら、そういった感じが何となく興國高校の生徒、というイメージ(良い意味で)。

この、生徒たちを総動員する方式がまさに興國高校の「人使いの上手さ」で、説明会において先生方、生徒たちが次々と登壇してスピーチしていく様子も、<全員野球>感が満載。<みんなで表舞台に出る><一人ひとりが主人公になる><全員が当事者になる>というONLY ONEの粒が勢ぞろいしているのが興國高校。

その立役者はやはり、理事長であり校長でもある草島葉子学校長。興國高校の「肝っ玉母さん」であり、経営者であり司令塔。この草島学校長のマネジメントの上手さが今日の興國高校の隆盛を招いていることは間違いないだろう。

「理事長は建物をつくるだけやないんです、建物に魂を入れる仕事なんです、魂を入れるということは良いコーチと良い先生を呼んでくることなんです」

よどみない草島学校長の話は聞いていて全く飽きることもなく、むしろ草島ワールドに吸い込まれる魅力がある。

併設中学のない高校単体で生徒数2,200名、教員数150名、教職員総数200名の大規模校であるので、コロナ対策も一か所ずつ消毒していたら間に合わない。卒業生からの提案で「イオニアミスト」という抗菌加工を校内全箇所に施したが、この日の説明会でもイオニアミストによる腕バンド(興國高校オリジナルのイオニアバンド)が出席者に配布された。

「こんなん効くんかいな、と思うでしょう。効くか効かないか、よりも効くという気持ちが大切なんです、これはお守りなんです」と草島学校長。その率直かつ、聴衆の真意を突く物言いが共感を誘い、草島学校長への求心力を更に高めているのだと思う。説明会中も立場に驕ることなく場内を回り、素晴らしい経営者であり現場責任者である。

そして、若手の教職員を登用してポストを任せ、説明会では各々の口からプレゼンテーションさせる。若い先生達も「自分はどうしたらよいのだろう」ということを常に考え、年齢の近い生徒たちと一丸になって生徒の未来と興國高校の発展に貢献する。

こういった好循環が、今の興國高校にはあるということだ。

「6カ年中高一貫の中だるみよりも、公立中(または私立中)からの本校生活3年間で結果を出す」これが本校の中心にある理念である。

サッカー部員はかつて12名であったが、全国から生徒を集めて現在280名が在籍する。今後は東北福祉大など大学とスポーツ連携し、7年間高大一貫教育の仕組みづくりを進める。

■コース編成
◎Super AD<スーパーアドバンス>→医歯薬・難関国公立大現役合格を目指す
◎AD<アドバンス>→国公立大・難関私大現役合格を目指す
◎AA<アスリートアドバンス>→トップレベルのスポーツ活動と難関大進学の両立
◎AC<進学アカデミア>→難関大進学、海外留学、大手企業就職、私大進学
◎CT<キャリアトライ>→公務員、大手企業就職、保育・幼児・初等教育系大学進学
◎IT<ITビジネス科>→簿記・IT関係就職、デジタル技術・ゲーム制作

本校の特徴は、これらのコースを<縦に並べるのではなく>、<横に並べている>こと。横に並べるというのは、上下で優劣を番付していないこと。それぞれがそれぞれでいいんだよ、と。難関コースだけが注目され、その他の生徒はその他大勢として扱われる価値観が本校には存在していない。

実際、就職の場合も国家公務員3名、刑務官1名、自衛官63名など、2020年春だけでも176名が公職に1次合格している。「就職すればいいや」ではなく、<目的意識を持ち>公務員試験への準備を重ねた上での就職を遂げている。

もう一つはAA<アスリートアドバンス>コース。<アスリート=スポーツ>で<アドバンス=進学>という2つの意味合い。
一般的にスポーツ志向のコースは「勉強は2の次で、スポーツで結果を出す」という、体育以外の授業で生徒はほぼ全員居眠り、となる学校が多いが、スポーツで結果を出し、横浜F・マリノスへの内定など商業スポーツへの進路を拓かせながら、それでいて勉学もきちんとやる、と。

本校には「〇〇の競技大会で優勝しました。日商簿記2級も持ってます」といった文武両道の生徒も少なくない。これは、必ずしも将来スポーツで生きていくことの出来ない、むしろどこかの時点でスポーツで挫折をして一般就職の道に進むことの多いスポーツ生にとってのリスク回避にも繋がる。

■大衆性
男の子であれば、必ず本校のどこかに当てはまるよね、という幅広い受け皿(大衆性)を持ちながら、2020年春で京大4名、阪大5名と国公立91名の合格、Jリーガーとして3名同時契約、警察官49名採用、ITパスポート18名合格といったそれぞれの分野における結果を出している点。

草島学校長が大阪私学連合の副会長として、府立高校の入試制度にもコミットする立場に就かれていること。一方で草島学校長の中高時代の同期生として40年の付き合いがあり、元北野高校の校長を務め、府立の文理学科創設にも携わった恩知忠司先生が特別顧問として今春より本校に勤務されていること。こういった教育体制の強化が顕著であり、本校はこれから更に伸びるだろう。総合的な意味で大阪桐蔭あたり数年後には軽く超えてしまうのではないか。

恩知先生の言葉にも強い説得力がある。「塾の先生方。生徒に”家に帰って素振り1000回やってこい”なんて教育者のすることではありませんよ。北野高校に進学する生徒はもともと優秀なのでは?・・・それは違います。自分の目の前で、授業で生徒を伸ばす。私が北野高校で実践してきたことは、ただこれだけです」

■もう一つの大衆性
2021年春の高校入試では、大阪府全体で昨年比3,000人の受験生減少がある。それに関する府立・私立全体の受け入れ方針の策定についても草島学校長が公的な立場で関わっておられるが、本校においてはまず学費の減免制度を積極的にPRし、使えるべき補助金が極力受験生に適用されるよう、事務長はじめ事務スタッフがしっかり相談に乗る体制を設けている。他校で減免の話を積極的に持ち出されることはあまりないのだが、本校はここに踏み込んで、<使えるものはしっかり使って諦めずに私学に進学してほしい>と力説する。まさに大切な大衆性である。

■目標を口に出して言う
「自分は京都大学に合格します!」「自分は海上保安官になります!」と、生徒は在学時から声に出す。言霊ではないが、有言実行ということも本校の特徴的な文化の一つだ。

■作り込まれた校内見学
数百名の塾関係者が集まった大規模な説明会であったが、校内見学も1時間半以上念入りに時間を要した。サブアリーナの内覧はスペースを4分割して剣道・柔道・ボクシング・ダンスを同時に見せる形式であった。また、廊下でガイドの先生が大きな声で案内をしても、授業中の生徒が集中を乱さない雰囲気を出していたので、ありのままの日常を見せるというよりも、説明会のために作り込まれた校内風景であったと考えられる。

これについては是非もあるかもしれないが、私としては校内風景を作り込むことの「非」よりも、エントランス出迎えも含めておびただしい数の生徒を動員して校内見学を作り込もうとするその統率力、組織力に舌を巻く。どの生徒もすれ違えば必ず「こんにちはッス!」と挨拶してくる。本当にまとまりのない学校だったらこんなことは出来ない。

余談になるが、CTコースの教室では生徒が保育向けのピアノを弾く傍らで、別の生徒が真剣な表情で赤ちゃんの人形をあやしていた。ある意味シュールな光景である。別のフロアではトレーニングルーム併設のプロテインバーで「試飲どうっすか」とガタイのいいラグビー部の生徒が近づいてくる。この<カオスな多様性>も本校の魅力だろう。

■まとめ
説明会本会場では中之島のリーガロイヤルホテルのケータリングが入り、ホテルスタッフが出席者にアイスコーヒーをサーブしてくれた。こういうのは学校によっては”成金”学校のような印象を持つものだが、本校の場合は「本物を扱う王道の学校」として貫禄をもってリーガロイヤルを入れていると感じた。

若い男性の先生が多く、男臭いといえば男臭い男子校。女性の先生は少ないが、校舎はエレガントな女子校のようでもあり、トイレにもウォシュレットが完備されている。草島学校長の繊細な配慮と言えよう。大正15年(1926)の創立で、JR大阪環状線の寺田町駅から徒歩7分。興國高校の更なる発展を見つめていこう。

(2020年9月4日訪問)