清風中・高(大阪市天王寺区・男子校)

近鉄大阪上本町駅から徒歩3分に位置する。学校案内では昭和20年の浅香山電機工業学校設立からの沿革が記されているが、Wikipediaによると昭和7年の大阪電気学校設立がルーツとなる模様。
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創立者は高野山真言宗大僧正の平岡宕峯(とうほう)師。理事長・学園長は御年90歳の平岡英信先生、校長はチベット密教の研究者でもある平岡宏一先生、系列の清風南海学園は平岡正巳先生、平岡正先生、専門学校である阿倍野の清風情報工科学院は平岡龍人文学博士、平岡憲人工学博士というように、層の厚い平岡一族による経営であることがわかる。

この日の説明会は平岡英信理事長・学園長のあいさつで始まったが、「これからは私学も塾も独自性で勝負せなあかん(生き残れない)」ことと「最終的に残るものは宗教心。宗教を土台にした人間にせなあかん」が要点だったかと思う。

この学校の興味深いところは、仏教を土台にした教育であるが校内に天照大御神を祀る神社が設置されていたり、しかし電気科から始まったこともあって理系がベースであったり、それでいて細かい添削を旨とする論文指導に特に力を入れているように、昨今の「科目横断型」という言葉が浅はかに聞こえるくらいに、技術の素養と文筆で知恵を磨くことで人間の土台をゆるぎなく構築しようという、王道かつ骨太の指針をもとに指導がなされていることが分かる。

3年間で60以上の行事があり、高野山修養、法隆寺修養、伊勢神宮修養、富士登山、文楽鑑賞、夜間ハイキング、勉強合宿(広島・淡路島)、餅つき大会、グランキューブ大阪での合唱祭など、外出かつ全員参加の年間行事が特に多いことも本校の特徴だろう。部活動では2019年にインターハイ出場者が40名おり、運動系・文化系ともに大変活発である。

そして、本校におけるICT教育。通常、タブレットやPC端末を用いた「道具を使う」授業が一般的な学校のICTだが、本校の場合はスーパーコンピューター「京」の開発者井上愛一郎先生を招聘して、井上先生が生徒に対してコンピュータの仕組みから指導されている。特に教室をCPUに見立てた「人間コンピュータ」。生徒がゼッケンベストを被って回路のなかを動きまわる。このように構造と原理を根本から理解して、そして初めてその先にプログラミングやPCの組み立てといった実作業を進めていく。

このように、小手先の興味・関心にとどめることなく、本格的な大家の先生をお呼びして直接生徒にその声を伝える取り組み。チベット仏教のダライ・ラマ法王も2016年までに3回本校で訓話をされている。

と、ここまで見ていった時に、本校はNHKの「ラジオ深夜便」のような学校だなと私は感じた。例えばホリエモンとかZOZOの前澤社長とかそういった類のポップさで生徒を惹きつけるのではなく、いきなり「〇〇大学名誉教授のお話」といった飾りのない本質的な存在、言葉を生徒たちにぶつけてしまうという、これは本校の理念がいかに確固たるものであるかを物語っているといえよう。

「鍛えてやることが次世代へのおくりもの」と副校長の平岡弘章先生が語られていたが、中・高6年間、文武両面で相当に磨かれる学校であろう。

平岡宏一校長の「質料因(怒りの原因は相手ではなく私自身の内面にある)」のお話もなるほどと思ったし、それゆえに校内でトラブルが発生しても引き延ばさず、その日のうちに解決する姿勢。また、国際コースが開始されるが、これまた小手先で英語を話せるだけでなく、母国の文化・歴史を語れる人間こそが国際人であるという、そのアイデンティティから出発する清風の国際教育も、他校では見られない独特のものと言えよう。

従って、偏差値や進学実績で本校を選ぶのではなく、本校の考え方、理念に充分共感し、同意のできる生徒・保護者のみ本校を志望するべきであろう。本校の方針に気持ちが届かない者は入学後も挫折または不毛な年数を過ごしてしまう可能性も高く、事前の本校研究を踏まえて受験しよう。

大学進学は東大・京大・阪大・神大・大阪市立大・大阪府立大で2019年の合格者88名と公表しているが、ダイヤモンドセレクト8月号によると現役合格者は44となっており、合格者の半数は既卒生(浪人)であることがわかる。また関関同立は合格者361名としているが、同様にダイヤモンドセレクト8月号では現役合格者162名となっており、半数以上の合格は既卒生が占めている。

現役で東大1、京大8、阪大7名入学しているので十分凄いのだが、本校は現役の難関大学合格には必ずしも強くはないとは言える。しかしながら、これまでに本校の理念と取り組みを見てきたように、高校3年間、または中高6年間でいかに意義のある学校生活を送り、人間の土台、ICTに見られる根本からの教育課程を踏まえて、その上で1年間予備校に通って難関大合格を目指すのは、ひとつの考え方、またこれから80年以上の長い人生を踏まえた時に選択肢としてアリだろう。

ちなみに入試については
H31年度高校入試で「専願=182名受験、180名合格」「併願=388名受験、387名合格」、これは学力別に3コース設置されているので上位コース受験からの回し合格(首都圏における「スライド合格」)で、下位コースに引っ掛かりやすい大阪の私学特有の入試制度になっている。中学入試も前期1.09倍、後期1.13倍で決して高い倍率でないのは、大阪府の授業料無償化施策や大阪自体に私学が多いこともあり、比較的に私立に入りやすい大阪の土壌ということも言えるだろう。

◎理系中心なのに論文指導、バックに宗教教育。(清風)
◎数学中心が多いのに作文講座、始まりは神社社務所。(当塾)

新日本プロレスのオカダ・カズチカに「レヴェルが違うんだよ」と恫喝されそうだが、何となく清風学園の目指す方向性と理念に私がこれまで大阪、首都圏で見てきた数多くの学校で得たことのない強い『共感と賛同』をもってしまったことは事実だ。