相愛中学校・高等学校(大阪市中央区)

大阪メトロ本町駅の4号出口からすぐ。北御堂(浄土真宗本願寺派 本願寺津村別院)境内にあって龍谷総合学園に加盟する中高一貫の女子校である。朝夕の通学時間帯には本校地下の専用通路がひらき、御堂筋線本町駅に直結する

浄土真宗のみ教え「當相敬愛(とうそうきょうあい=まさに・あい・きょうあい・すべし=まさにお互いが、愛に敬いを伴わなければ、まことの生き方ではない)」を校名のルーツとして、今から132年前の明治21年(1888)に相愛女学校として創立された。

説明会の冒頭、園城(そのぎ)校長により東京ディズニーランドにおけるひとつのエピソードが紹介された。

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若い夫婦が園内のレストランに入った。ウェイターが注文を尋ねると、その夫婦は「お子様ランチを2つお願いします」と言った。ウェイターは困惑した。なぜならば、お子様ランチを注文できるのは子供だけで、大人からの注文は断るマニュアルになっていたからだ。

ウェイターは勇気を出して夫婦に尋ねた。なぜお子様ランチを注文するのか、と・・・「待望の娘が生まれたのですが、病気で亡くなってしまって・・・今日は本来なら娘といっしょにここに来るはずだったのですが、せめて夫婦でお子様ランチだけでも・・・と」

ディズニーランドでは、マニュアルに従うことも大切だが、しかしマニュアルを超えて一歩踏み込んだ行動も称賛される文化がある。

ウェイターの青年は「わかりました」と答えて厨房に消えた。しばらくすると、夫婦のテーブルにはお子様ランチが3つ運ばれてきた。ウェイターはこう言った。「こちらにお子様の席をご用意します。今日は親子でいっしょに召し上がってください」

夫婦は感激して「ありがとう・・・この子の弟、妹を必ず連れて再びいつか、必ずお店に来ます」

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――なぜ園城校長はこの話を冒頭に持ってこられたのか。当初、その意図が私自身分からなかったのだが、このあと本訪問全般を通して園城校長の言わんとしている意味を痛いほど理解することになった。

■SDGs
2019年、本校は大阪の中学・高校で初めてSDGs(持続可能な開発目標)に取り組むUNGC(国連グローバルコンパクト)に加盟した。

SDGsの目標は「誰一人取り残さない社会」をつくることであり、これは釈迦の教え「摂取不捨(せっしゅふしゃ)」にそのまま通じる。具体的には身近な社会課題の解決法の探究、戦争と平和の学習、「困っている人」に対して何が出来るかのグループワークといったSDGsに関連する探究プログラムを導入している。

■自利利他の心
さて、ここまでディスニーランドのエピソードとSDGsの話題が出たが、これらに共通することは「プラスαの思考力と行動力」が一番大切だということ、つまり「自利利他の心=おかげさまの心」、一歩踏み込んだ思いやりの心を育みたいという本校の中核にある考え方だ。

その考え方を伝えることはキャッチフレーズでは難しい。だからこそディズニーランドのエピソードを通して、<言葉にできない何か>を共有してほしいという園城校長の想いが強く理解できるのだ。

■ “遅れていた” ICT環境の整備
2020年度中に校内Wi-Fi環境を整備し、中学生には1人1台でiPadを支給する。高校は1人6万円のパッケージで、iPad、Microsoft365、Moodle(eラーニングシステム)を購入。

■コース編成
中学校では「特進」「進学」「音楽科」、高校では「特進」「専攻選択」「音楽科」に分かれる。

■特進コース
「誰一人取り残さない」と銘打った高校の特進コースは1クラス10名程度であり、3学年でも30名程度なので学年を超えた縦のつながりが強く、コースというよりも「特進ファミリー」の雰囲気を持つ。薬学部・看護系大学への進学が近年増えており、先輩から後輩へのインスパイアも影響しているのかもしれない。

■専攻選択コース
高1で必修科目+教養選択(華道・茶道・ヨガ・吹奏楽、※華道・茶道は免状取得可)、高2・3で以下の7専攻に分かれる。今年度の高3が73名。
◎幼児教育
◎看護受験
◎栄養
◎文系
◎理系
◎文理系
◎教養マナー

これらの専攻は専門科目を多く履修して専門性を高めるのではなく、「フードデザイン」「幼児教育基礎」「着付け」など1人4科目ずつ選択することで、高2・3の2年間でそれぞれの専攻に関する基礎力を養うイメージである。

■音楽科
明治39年(1906)の相愛音楽学校をルーツに持ち、作曲・声楽・器楽など多彩な専攻を選択可能。2019年には全日本学生音楽コンクールで大阪1位入賞。

■指定校推薦
本校は日本最大の学校グループである龍谷総合学園(龍谷大、京都女子大ほか)に加盟し、龍谷大学への推薦枠が19名ある。専攻選択コース・音楽科から4人に1人が龍谷大学へ進学できることになる。南港にある相愛大学への推薦枠に制限数はない。

■校内見学
見学者は私を含めて塾関係者3名だけだったが、B棟最上階の7階から教室全フロア、E棟4階体育館での体育授業、A棟講堂での教育実習生による音楽授業と、校内をくまなく案内していただいた。

高1数学で授業をされている先生が見学者の気配を感じて「おー緊張するなあ」と仰りながら黒板の「:」の記号を指して「これ、何や?」・・・生徒が「コロナ!」「いやいや、コロナちゃうで、コロンやで」

みたいに楽しい雰囲気もありながら、しかし崩れていない。崩れていないというのは先生と生徒の関係性。居眠りをしている生徒も、居たとすれば高2・高3の専攻選択クラスで1名ずつ程度でしかない。先生と生徒の間に<ほどよい距離感>がありながら、同時に<近さ>もある

これは言葉で表現するのが最も難しいのだが、どの教室を覗いても<先生と生徒の理想的な間合いがある>ということだ。用事のため授業中の教室へ途中入室する生徒がいた。私たちの前を深々とお辞儀をしながら教室に入っていく。さりげなく実に美しい振舞いであった。普段からしていなければあの動きは出来ない。廊下で待機される案内の先生方もまた、さりげなく「こんにちは」と、「言わされている感」ではなく心の底から相手を迎えるニュアンスがにじみ出ている。

フロアを下階に降りながら私の歩数が増えるたびに幸福感のような感覚で満たされていった。「これは、凄い学校だ」と。

一つの教室だけ、化学の授業で先生がプロジェクターを持ち込んで黒板に画像を投影しながら授業を進められていたが、ほとんどは板書・話術・生徒との問答による従来型のアナログな授業である。

先ほど「 “遅れていた” ICT環境」と書いたが、本校にICTは不要ではないか、と正直思った。不要というのは、時代の波に合わせて無理に最新ツールを導入するよりも、本校のアナログな授業の方が遥かにクオリティが高いのではないか、ツールによってそれが壊れてしまうのではないか、と。

本校はまさに「古きよき学校」である。ICTをどんなに先進的に導入している学校も、<本校の先生方と生徒が醸し出す空気感>を再現することは不可能ではないだろうか。

もちろん、そういったアナログの部分、硬派すぎる部分が流行を求める最近の保護者・生徒からは敬遠される要因にはなるだろう。しかし、浄土真宗の開祖である親鸞聖人が現在の本校をご覧になったら「これだよ」と涙を流して喜ばれるのではないだろうか。

その空気感とは、宗教行事、礼儀作法、華道や聴音といった女子校ならではの取り組みもさることながら、冒頭の園城校長がディズニーランドのエピソードで伝えようとされた心がまさに教職員から生徒まで、学校全体に浸透している故だろう。

本校の高校入試は五ツ木で特進の専願50、専攻選択の専願40が相談目安であるが、本校の価値はこの偏差値という数的価値を超えている。偏差値でその学校を見るのではなく、その学校の<授業にこそ真実がある>ということなのだろう。

「凄い学校です」

案内して下さった先生に私は思わず力説してしまった。その先生が南門を出ていく私の姿を最後まで見送って下さったのも、まさにそれが「お見送り」の本当の姿であって、浄土真宗の”み教え”の体現でもある。

女子教育は国の根幹。古い言い方になるかもしれないが、「よき母なくしてよき子は有り得ない」のは塾運営を長年続けてきて、私にとって不変の真理である。大阪のド真ん中に、いや、日本にこういう学校があるということは、国の誇りだといって大袈裟でも過言でもないだろう。

(2020年9月1日訪問)