新今宮から南海高野線の急行で26分、大阪阿部野橋から近鉄南大阪線の準急で41分。河内長野駅を降りた瞬間、山のにおい?森のにおい?都市部には無い自然の空気が漂っている。そして、都市部に比べて何となく涼しい。1~2度くらい気温が低く感じる。
駅前のノバティから送迎バスに揺られて10分弱。栃木県日光市に次いで12番目に国宝・重要文化財が多い河内長野市。車窓から見る風景は、恐らく昔は秘境だったのだろうと思われるクネクネ道に新しく住宅地や商業地が開発されていった趣がある。関東でいうところの鬼怒川温泉郷に雰囲気が似ている。
勾配のきつい山道を登って学校に到着。生徒は駅から住宅地側の専用通学路「しらかしの径(みち)」を経由して最後にトドメの階段を登って、足腰を鍛えながら校舎まで徒歩10分。山の斜面に造られた、高低差の大きい校舎である。
本校は昭和23年(1948)日本基督教団の教育機関「清教塾」が起源。昭和42年(1967)に現校地への移転から増築を重ね、現在の威容に整備された。実際に校舎内を歩くと建物が連続に連続を重ねるようで迷路の錯覚に陥る。
しかし高台の校舎だけあって、やはり涼しい。都市部で気温35度だ36度だ、となっていても窓の開いた廊下を歩いているだけで心地よい風を感じられる。4階の自習・協働スペース「ラーニングコモンズ」からは河内長野市内とそれを囲む山地が一望でき、なかなか壮観である。ラーニングコモンズに配置されている生徒用デスクが、その景色を臨むように配置されているのも心憎い。
校舎のほぼ中心にあるリブラリア(スタディホール・図書館)。2層構造で上階は探究学習でプレゼンテーションやグループワークに用いられ、下階は照度の高い明るい空間に所狭しと本が並べられている。当図書館は2014年に学校図書館大賞を受賞しているが、カビ臭い古本が並ぶ見せかけの図書館ではなく、今の生徒にとって手に取りたい本が随所に並ぶアクティブな図書館である。本校を訪れたら必見。
このリブラリアが<本の森>だとすれば、校舎は<教育の森>。自然の景観も<森>。そういった<森の環境>ということがこの清教学園のキーワードなのではないか、と思った。
教室の廊下には教員自作の大学入試対策プリントが多種大量に陳列されており、生徒はそこから自分にあったものをチョイスして自学に充てる。これもまた<勉強の森>である。
そんな<森>の環境で、学校のスタンスとしては<生徒を大切にする>。生徒を大切にするのは当たり前ではないか、と思う所だが本校の場合は大学進学実績ありきのスタンスは絶対に取らない、ということ。学校が生徒を誘導して大学受験を促し合格者数を多く見せる演出もせず、そもそも<広報のための実績づくりはしない>と断言。これが本校の本質だろう。
また、受験生に対しては、中学受験で生徒が何校も受験して、疲れ切った後に本校に入学してくるようなことも<塾関係者はくれぐれも配慮してほしい>と。こういったことを私学の先生が述べるなんて私には新鮮な驚きだったが、これこそが本校の目指す「一人ひとりの賜物を生かす」ミッションそのものだと思った。
「神なき教育は知恵ある悪魔をつくり、神ある教育は愛ある知恵に人を導く」という精神を体現しているのが清教学園である。
こういった、愛に包まれた<森>の中で生徒はそれぞれの自分にとって必要なツールを用い、進路を見定め、真面目にコツコツと勉強していく。それを教職員が全力でバックアップしている。
コース編成はシンプルで、中1~高1で基礎型のⅠ類、発展型のⅡ類。高2~3で文系・理系に分かれるが本校は文系比率が比較的高い。授業は週6日制だが詰め込みで授業数を確保するのではなく、生徒が自分で取り組める時間も確保している。中2で中学単元を、高2で高校単元を終える。ほぼ全員が4年制大学へ進学し、現役合格率は91.5%。国公立大の現役合格率は38%で、毎年3人に1人以上が現役で国公立大学へ合格している。
夏期セミナー、論述問題の個別指導など無料講座を多彩に用意。東大や阪大、早慶などの大学訪問(従来ならば同志社を志向していた学力の生徒が近年は関東の大学を志向するケースが増えている)、ネイティブ教員によるオンライン英会話、講演会、課題探求型学習、卒業研究、ポスターセッション、全国高校生フォーラムへの出場と日本一獲得。高校生は全員PCを持参、中学生は端末貸し出し。G Suiteアカウント、Microsoft365アカウントの全員付与等々、とにかく<知の森>。高校生の端末選択は、調べもの中心の生徒はiPad、プレゼン資料の作成に重点を置きたい生徒はPCと、あくまで生徒が「どうしたいのか」を主体にする。
ICT環境の整備に従来から取り組んでいたこともあり、今春の臨時休校中も支障なくオンラインで授業を継続。むしろオンラインの方が授業の進みが速かったと。「他の生徒の顔を見ながら自習した方が張り合いが出るから」と生徒の要望により「オンライン自習室」を開催するなど、進学校ならではの創意工夫も。
尚、オンライン授業については、自由な時間に視聴できる配信形式は生徒から不評で、学校に居る時のように時間割をきっちり設けて配信時間を固定した方が良いとのことである。教員によってはzoom、Google Meetも活用して双方向授業。
海外研修も活発に行い、ケンブリッジ大学、フィリピン・セブ島研修、デンマーク、インド、中国、台湾との学生交流、留学生も受け入れる。部活動は中学88%、高校82%の加入率で、特になぎなた部、合唱部は全国トップレベル。部活動に加入している生徒の方が大学の進学実績も高いようだ。最終下校は19時。
最後に、募集対策部は部長の小路先生を含めて6名おられるが、うち2名は富田林など近隣の公立中学の校長経験者をヘッドハンティングして任用。「本校はスーパーマンのような教師を集めるのではなく、頑張れる環境をつくることに力を注ぎたい」と。各クラスの授業風景も含め、その言葉通りの<真面目な進学校>であった。
追記
入試において英検の加点はほぼ無く、合否のボーダーの判断材料にする程度。万が一加点があったとしても最高10点程度、あくまで本番での実力を問う入試とのことである。
(2020年9月3日訪問)