YMCA学院高等学校(大阪市天王寺区)

大阪YMCAの学校構成はちょっとややこしい。
現在「学校法人大阪YMCA」が運営する高校生対象コースは4種類ある。

▼YMCA学院高等学校(谷町九丁目駅・徒歩4分)
▼大阪YMCA国際専門学校 高等課程 表現・コミュニケーション学科(肥後橋駅・徒歩5分)
▼大阪YMCA国際専門学校 国際高等課程 国際学科(肥後橋駅・徒歩5分)
▼市立水都国際中学校・高等学校(ポートタウン西or東駅)

YMCAは「Young Men’s Christian Association(キリスト教青年会)」の略語。大阪YMCAは明治26年(1893)の創立で、幼稚園・保育園からアウトドア研修・ボランティア・スポーツ活動・日本語学校と、青少年教育に関する領域は多岐にわたり、高卒生対象の2年制「大阪YMCA国際専門学校」は「国際ホテル学科」と「国際ビジネス学科」に分かれている。

先程の高校生対象4校のうち、水都国際を除いて3校を詳しく見てみよう。

▼YMCA学院高等学校(谷町九丁目駅・徒歩4分)

2002年の設立。通信制課程(単位制)総合学科をもち、全国のYMCAで高等教育の唯一の核になっている。コースに応じて週1日~5日の通学回数が選択でき、「通信制」として大阪府の認可(府内全11校のひとつ)を受けているが、実際には「通信制」課程の授業を登校して受けるという全日制型の学校である。

発達障害、起立性調節障害など、多様な不登校経験を持つ生徒が約7~8割在籍。基礎学力を身につけたい、中学校の勉強を学び直したい、ゆっくりと人間関係を築きたい、体調面や精神面での通学の不安といった一人ひとりのニーズにきめ細かく対応できる幅広いコース編成を行っている。中学時代のクラスメイトに登校中会いたくない生徒には午前10時半からのマイスペースコース、体力に不安のある生徒には昼12時半から開始するコース、といった具合である。

「総合学科」の割合は現在国内の学校の5.6%とされている。総合学科は勉強から職業選択まで幅広い授業ラインナップを用意しているコースのことで、本校では「福祉(子どもの発達保育など)」「多文化共生(ジェンダー入門など)」「エコロジー(農業体験など)」「情報処理(文書作成など)」といった社会人のスキルに直結する選択授業を設けている。

支援体制としては「心のケア」「進路のケア」「身体のケア」を整え、カウンセリング、ハローワークとの連携、キャンプの開催という風に全人的なサポートが整えられているのは歴史のあるYMCAならでは。

進路も多彩であり、大学・短大29%、専門学校28%、就職13%、進学準備(浪人)10%、就労支援ほか20%という風に、個人本位の進路を支援していることが分かる。

本校への出願は事前の個別相談が必須。2月に実施される1次・2次入試で定員が埋まるコースが多いため、3月の3~5次入試には持ち越さずに、2月の入試で決着をつける必要がある。

▼大阪YMCA国際専門学校 高等課程 表現・コミュニケーション学科(肥後橋駅・徒歩5分)

むしろここからが本題で、幅広い網をかけて多様な個性・スタイルの生徒を受け入れるのが「YMCA学院高校」だとすれば、そこからターゲットをしぼって、「YMCA学院高校」の良い所を更に充実させて生徒に濃く還元しようとしているのが「表現・コミュニケーション学科(表コミ)」である。

表コミ(ひょうこみ)はYMCA学院高校の技能連携校として、表コミに通いながらYMCA学院高校の課程を履修することになる。生徒は「表コミに入学すると同時に、YMCA学院高校に入学する」というダブルスクールになる。YMCA学院高校の学習課程を表コミの先生方が面倒を見て、卒業まで押し上げてくれる、という形式。(定期券の適用有無などで厳密に同じではないが、いわゆる「サポート校」のグレードが一段階上がったのが「技能連携校」。「サポート校」というのは単なる学習塾)

技能連携校である分、学費の面で割高になるが、大阪YMCAのいちばん良い所を吸収したい高校3年間にしたければ、YMCA学院高校ではなく、「表コミ」一択ということになるだろう。

制度の面をもう少し書くが、「表コミ」だけでは「大阪YMCA国際専門学校 高等課程」卒となるので「高等専修学校」卒業資格しか得られず、”基本的に”専門学校しか進学できない。大学に進学するためには正式な高等学校卒業資格が必要だから「YMCA学院高校」へのダブルスクールが必要になるのである。

さて。
表コミは1学年1クラスで全校生徒が約100名。少人数で丁寧に関わってほしい生徒、学び直しをしたい生徒、学校生活に馴染みにくい生徒の自立への歩みを支えるコースだ。

こちらも7~8割の生徒が不登校を経験しており、療育手帳の所有者も全体の1~2割に及ぶ。

100名の生徒に対して言語聴覚士など15名の有資格者スタッフがケアに当たっており、担任も2人制。ボランティアスタッフもサポートに当たる。

人間関係、コミュニケーション、SST(ソーシャルスキルトレーニング)といった各種対人に関するトレーニングも組まれ、海洋キャンプ、宿泊研修、演劇発表、広島平和研修、卒業公演など、まさに「表コミ」のコース名に相応しい校外行事も豊富に実施されている。

特に演劇については、「配役を通して人と関わる」ことが目的であり、これまで交流することのなかった仲間との接触機会であったり、相手の立場に立ってモノを考えることであったり、演劇が目的でなく、演劇を通して得られる人間の豊かさの獲得が目的だという趣旨には心を打たれるものがある。

日頃の授業開始時間は午前10時となっており、満員電車を避ける効果、地元の小中学生とすれ違わずに済む効果など、その配慮はきめ細かい。時間割の約7割が1クラス15名の習熟度別授業。英語はbe動詞の復習から始まる。

毎日出席し、通信制課程のレポートを提出、テストをきちんと受けていれば留年することは無いとのこと。(テストの成績が芳しくなくても、繰り返しの再試でフォローをします、と)

進路は進学74%、15%就労支援・職業訓練校、11%進学準備(浪人)など。表コミで自信を回復し、次の進路を自分で自立して決めるための高校3年間となるのだ。

入試に関しては、直近5年間は不合格を出しておらず、「毎日登校する意志」「学習の意志」「仲間づくりの意志」の3点さえあれば、問題はない。作文が課されるが、出願時にテーマを頂けるので事前に準備ができる。直近のテーマは「自分を大切にするとはどういうことか(400字)」で、小4レベルの漢字が書けているかどうか、が審査対象になる。

入学後、教室に入れず外で折り鶴を折り続けていた生徒がいた。クラスメイトが注目し、「すごい!すごい!」とその輪が広がって、その生徒の自信の源になり、その生徒は自身の手先が器用なことを活かして「歯科技工士」の職についたという卒業生のエピソードには強く胸を打たれるものがあった。

▼大阪YMCA国際専門学校 国際高等課程 国際学科(肥後橋駅・徒歩5分)

最後に、IHS(インターナショナルハイスクール)。IHSも表コミと同様に「技能連携校」のYMCA学院高校にダブル入学すれば、高校卒業資格を得られるが、そもそもIHSに入学する生徒は海外の大学へ進学を希望する生徒も多いため、日本の高校卒業資格が必ずしも必要とされず、IHSにおいては技能連携校のダブルスクール入学の意味はそれほど大きくない。

IHSは1988年の設立で現在国内生55%、帰国生・外国籍生45%の割合。通常のインターナショナルスクールは外国籍90%または国内生90%という風にどちらかの国籍に偏るが、本校のほど良いバランスは他校に類を見ない。

新しい学力観、21世紀スキル「6Cs」(協働力・表現力・コンテンツ力・思考力・創造力・主体性)を30年前の開設当初から志向しており、全授業の50~80%を外国人教員が担当。体育など英語を使って授業を行うイマージョンプログラムを実施し、専修学校ならではの柔軟なカリキュラムを設置している。

国連の国際イベント、世界のYMCAメンバーとのワークショップ、海外留学、相互交流といった各種事業を通して国際性と高いコミュニケーション力を養っている。

進路は関関同立・早慶上智レベルの大学進学37%、関西外大・産近甲龍レベルの大学進学21%、海外留学16%という風に、英語を中心とした進路を結ぶ。

このようにして見ると、水都国際のノウハウはIHSにあることが理解でき、その30年の実績があるからこそ、水都国際という公設民営の学校運営を受託する流れになったことがよく分かる。

これで混沌としていた大阪YMCAの高校部門の位置づけが区別出来た。
校長の鍛治田先生と名刺交換をさせていただいたが、どのような規模の組織であれ、校長自らが表に立ち、視線を実働の各現場に注いでいる学校に悪い学校は存在しない、というのは私の経験上、ほぼ間違いなく言えることである。

(7月7日訪問)