昇陽中・高(大阪市此花区・共学)

【アクセス】
JR大阪環状線の西九条駅を下車して六軒家川の朝日橋を渡ると、橋のたもとに昇陽中学・高校がある。西九条の辺りは海抜マイナス1m地帯で、南海トラフ地震の津波や高潮の影響が怖い地域でもある。

いきなりそんなネガティブなこと書いてどうするのだ、という話でもあるが、一方で交通の利便性は抜群。まず西九条駅は大阪環状線なので京都・奈良・兵庫・和歌山の各方面へ乗り換えが1回だけで済む。また、西九条自体が阪神線・近鉄線に直通していることと、隣の九条で地下鉄中央線にも接続しているため、とにかく至便な場所といえる。実際本校の通学者は此花区が最も多いが、近県・近隣の市に分散していることも特徴的である。

【指導方針】
中学校は1学年1クラスで定員40名。正しい習慣と健全な価値観を養う。スクールバスで新御堂筋を北に40分の距離にある旧府立城山高校(豊能町)の校地を購入し、大阪府下で唯一本校だけの本格的な農業実習。農作物に触れ、収穫する喜びと感動を知る体験。

高校は建学の精神「奉仕のこころ」に基づいて、8コースを展開。
◎普通科(215名)
 特進(25名)→元府立高校文理学科教員による受験指導。
 進学Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ(35名)→難関大進学、アスリート進学、文武両道の3類型。
 看護・医療系進学(30名)
 公務員チャレンジ(30名)→今春、1期生が卒業して大阪市役所、尼崎市役所へ就職。
 ビジネス・ITフロンティア(30名)
 パティシエ(70名)→パティシエコースとしては大阪で最も古い。在学中に製菓衛生師国家試験を受験できる。

◎福祉科(65名)
 福祉(35名)→大阪府下で福祉科は淀商業と本校の2校のみ。これまで累計521名が介護福祉士に合格している。
 保育福祉(30名)→保育士とヘルパーの両資格を取得可能。

各コースが充実しているのにコース定員は決して多くない。生徒一人あたりの教育コストが相当かかっていると思わせる、贅沢な教育環境である。

【歴史】
本校の創立は大正13年(1924)、淀之水女学校として創立され、現在も法人名は淀之水学院。2012年に男女共学化が達成された。校舎は昭和の趣が残る建物から平成初期の建物、そして近年完成したばかりの近代的な建物まで、全く雰囲気の異なる校舎が狭小なグラウンドを囲む不思議な空間。西九条から千鳥橋に向かう阪神電車の高架下は部室棟で、キャンパスにはゴトンゴトンと電車の通過音が響きわたる。

【部活動】
全生徒のうち部活動の加入率は約90%。中学校ではソフトテニス・新体操・卓球(女子)、バレーボール(男子)が強化指定で、男子バレーボールは一昨年、昨年と全国一位の実力。高校ではサッカー・ハンドボール・柔道(男子)、ダンス、吹奏楽が強化指定されている。

卓球の伊藤美誠選手は静岡の出身だが、関西卓球アカデミーを拠点とするため、中1より6年間本校に通学、卒業している。本校の近年の目玉と言えるだろう。

【おわりに】
2018年4月より、府立泉尾高校・槻の木高校の校長を歴任された竹下健治先生が校長に着任。そろそろ1年半になるので目に見える形で結果を表したい、ということで『昇陽を具体的に変える』。何を変えるか。『ヒト、モノ、カネを変える』と。

◎ヒトを変える=特進コースに元府立高校文理学科の教員を招聘。
◎モノ(学び)を変える=コースの再編、全コースGTECの受験。
◎カネ(の使い方)を変える=施設が変わる・・・全教室にプロジェクター、ホワイトボードの設置。「今更だが」と竹下校長。

竹下校長の「今更だが」の言葉の奥に、学校改革を乗り越える難しさがにじみ出ている印象を受けた。

ただ、見た目の穏やかそうな印象と異なる竹下校長の語気の強さと勢い、そして眼光の鋭さを見ると、パンフレットなど媒体の姿よりも生身のご本人に接することでその力強さを実感できることと、これから変化の大きく表れる注目校として本校を着目してよいだろう。

施設見学の折に特進コースの英語の授業を見学させていただいたが、招聘された講師の先生の滋味あふれる授業に見学者一同見入ってしまった。ちょっとした合間に「規範文法」と「記述文法」の違いをさらりと織り交ぜながら、トランプ大統領の時事風刺も重ねつつ、それを10名の生徒だけで受講しているという贅沢さ。

例によって先頭の女子生徒がダラッと顎を机にこすりつけながら話を聞いていた(?)が、生徒には勿体ない授業を展開しているというか、この授業を贅沢だと思える生徒がいたならその生徒はきっと急成長するだろうし、恐らく生徒の実態はともかくひたすら良い環境を提供することに学校が腐心しているようにも思える。

本校は特待制度を充実させているが、上位校を受験できるレベルの生徒が、特待の恩恵を受けながら本校の贅沢な授業を浴びて次なる進路へ向かうというのも、現在の竹下校長在任中は選択肢として充分アリだと私は思う。

他に福祉コースの実習(介護福祉士の資格認定試験が本校で行われるほど設備が整っている)、パティシエコースのドーナツづくりを拝見させてもらったが、少人数グループごとに担当の先生が配属されたりと、とにかく贅沢。私から見てまだまだ生徒の方がボヤっとしている印象だったが、本校のこれからの伸びしろは大きいだろうと感じた。