徹底して埋め込め

私もこの仕事初心者の頃は「何でも教えよう」という姿勢が強く、集団であれ個別であれ授業の大半を講義という独演会に費やしていた。ところが、仕事を続けていくうちに講義は最小限で良いことが分かって来て、常に「生徒自身が理解しているか」「生徒自身がその問題を解けるか」ということに目的を置くようになった。

ダラダラと講義をしても、それが生徒の身につかなければ意味が無いし、生徒の成績に反映されなければ、その講義は徒労に過ぎない。今では講義はごく最小限で、最も大切な核となる部分のみを生徒に伝え、それがその生徒に確実に定着するよう腐心している。

さて、ではその核をどのように生徒に埋め込むか。ある事項を私が生徒に説明する。するとすかさず「分かった?」とその生徒に尋ねる。生徒は「はい、分かりました」と答える。ここまでは多くの指導者がしていることだろう。しかし、ここで終えて満足する指導者が実に多い。この先が大切なのだ。

「じゃあ、何が分かったの?」

すると生徒はシドロモドロになって、答えられない。「ほら、分かってないじゃないか」。ここで生徒が確実に理解して、それを自分の言葉でアウトプット出来て初めて指導が成立したことになる。

「古文で語尾の『ん』は意志を表すことが多いんだよ。分かった?」「はい。」「じゃあ、『ん』は何を表すの?」

すかさず尋ね返すことで、先ほどの話を生徒が聞いていたかどうかがすぐに分かる。そして、こういう緊張感のあるやり取りをすることで、生徒自身も「話を聞かねばなるまい」という気持ちになる。これがプロの指導というものだ。

また、生徒が理解したことは必ず書かせることも大切だ。神尾塾ではフリクションの赤・青・緑ペンを必携にしている。色の優先順位もあるが、”色に優先順位をつけることの優先順位が低い”生徒に対しては、色がバラバラになるように、Aという大切なことを赤ペンで書いたら、その隣にBを書くときは緑ペンで書かせるように、視覚的にも書いたことが見やすいようにさせる。

「主語がHe,She,Itの時は動詞にSをつける」これは英語の三単現の話だが、いちいち書かせる。大切なことほど、口頭の問答で定着させたら必ず書かせて、視覚の定着を図る。「分かった?」「はい」だけで終わらせてはいけない、指導するということはその事項を徹底的に生徒に埋め込むということなのだ。