中山学園高校についてはこちら。
11月12日、木曜日。午後1時に船橋駅到着。南口から5分ほど駅前通りを歩くと船橋市民文化ホールがある。ロビーには山本先生がいらして、早速そちらで受付。「R君も受付で頑張っていますから!」と山本先生の見つめる視線の先には、中学生受付でスタッフとして応対していたR君が!
「いやー久しぶりだね」「ほんとお久しぶりです」と久々の再会。R君も今や高校3年生。不登校の頃の方がむしろ老けていたのではないかと思うくらい、今では元気で快活な好青年になった。実は1ヶ月前にR君と、この後登場するHさんの現在の学園生活をまとめたスナップ写真を中山学園から頂戴していた。
R君と話していると、校長の三雲先生がわざわざロビーに来てくださった。「いやあ、先日はR君の写真、有難うございました…私、あの写真いただいて(R君の変わりっぷりに)1週間泣きましたよ」「ほら、R君、あなたの為に泣いてくれる先生がいるなんて幸せじゃないの」と三雲先生がR君の肩をポンと叩く。「あっ、はい(笑)」とR君。
「座席までご案内しますから」とR君。来賓席が1階席中央前方に設けてあったのだが「いや、俺そんな来賓だなんて。後ろの端でいいからさ」と生徒たちの座る1階席後方に着席する。
すると今度は1年生のHさんが私の席まで来てくれた。江川先生がわざわざ呼びに行って下さったのだ!(江川先生には写真の手配から生徒の近況報告など数々のお手間を掛けて下さり心より感謝!)。「わー久しぶりー」「今日は来てくださってありがとうございます!」Hさんもまさか不登校だったとは思えない、神尾塾に在籍していた時にそんな声出したことあったっけ?と思うくらいに明るい声、容貌もすっかり大人の女性だ。「頑張ってね、またいつでも塾に遊びにおいでね」「はい!」。
※Hさんについて
ちょうど午後1時半。場内が暗転し、3年生のMCの生徒が登壇。
オープニングはチバテレの高校野球テーマソングを唄っているAyummyこと糸あゆみさんのミニライブ。お母さんが中山学園の教員をされているご縁での出演とのこと。なかなか上手い。やはり、ライブで歌って上手い人というのは音程が確かだから本当に上手いということなのだ。
2曲を終えて、1年生古内凌太君のけんだまパフォーマンス。これがまた凄い。ヒップホップに合わせてヌンチャクのようにけんだまを操っていく。最後の方でリズムに合わせてけんだまを披露。記録保持者で受賞歴もあるというのが理解出来る。中山学園にはこういうツワモノがいる。
古内君の照明が消えると、1年生有志のM4SA16のダンス。途中黄色の衣装を着た子のベルトが落ちてしまい、どうなるのかとハラハラしたが、パンツを押さえながらベルトを振り回して最後まで熱演。この子はハプニングを演出に変えてしまう強さを持っている。
続いて3年生女子有志のBlack Lip:sのダンス。MCの紹介で「セクシー♪なパフォーマンスをお楽しみ下さい」との通り、もう色気ムンムン。場内盛り上がる。中山学園にこういう側面があったのか!と驚いた。
次々に小気味よく演目が展開されていく。ひとつの演目が長すぎないのも良い。えっ、もう終わっちゃうの?と思うくらいのスマートな構成であっという間に第1部が終了。
10分間の休憩を挟んで場内が再び暗転。中山学園学園祭の目玉、ファッションショーが始まる。ステージ両端には壁が置かれ、「2015 NAKAYAMA GAKUEN FASHION COLLECTION」と書かれている。貼り紙かな、と目をこらして見ると、文字がプレートとなって壁に埋め込まれている。超本格的。
第2部のオープニングが3年生有志のDrapingから。1枚の生地から1着のドレスを作るという大作。製作過程の映像がスクリーンに流れて(この映像編集がまた上手いの何のって)、映像が終わって真っ暗になったかと思ったら突然照明がつき、ステージには6着の衣装と、それぞれの横に制服姿の製作した生徒が。この演出カッコよすぎる。それぞれが衣装を360度回転させて、その全貌を魅せつける。(ステージ後はロビー正面に飾られた)
いよいよ1年生のファッションショーだ。1年生は全員が衣装を製作し、全員がステージに上がることになっている。
最初に1年4組。Smileという演目。これまで第1部からDrapingまで出演した生徒たちは、有志ということもありパフォーマーになりきっていたが、1年生のクラスごとの出演は、初めてのステージだからみんな笑顔どころかガチガチの表情。しかし何と言っても一人ひとりがとても素朴。そんな彼らが字の如く「一所懸命」。本当に頑張っているのが痛いほど伝わってくる。
この生徒たち一人ひとりがこれまでの人生で困難なこと、辛いこと、苦しいこと、一筋縄ではいかないこと、紆余曲折を経て中山学園と出会い、そして今日のステージに立っているのだと考えていたら、思わず涙が出てきた。これを感動というのだろう。
1年4組、3組、1組、2組と続く。私は胸が詰まりっぱなしになりながら、「本当によかったね、君たちは人生の主役なんだからね」「今まで大変だったろうけど、報われたね」と心の中で生徒たちにエールを送る。
不登校を経験していたり、真面目で人柄は良いけれども中学校になじめなかった生徒を積極的に受け入れている中山学園。ところが卑屈さも一切感じさせることのない、力いっぱいの前向きな気持ち、輝きがそれぞれの生徒から放たれていく。
1年3組のパフォーマンスにはHさんの姿も。「うわーHさん頑張ってるわー」と、今こうして一日を振り返ってこの記事を書きながらも、一人感極まっている(午前2時)。
2年生、3年生のステージはファッションコースの生徒が中心となり、学年を追うごとに演出、グレードが上がっていくのがよく分かる。遊びの要素も入ってくるし、2年生男子によるアーミーでは、銃を持った軍人が囚人の身体を客席に向けて突き出す。その際に囚人のファッション、もちろん生徒の創作衣装だが、その細部が客席によく伝わるように見せられているのも、非常に賢い演出だ。
3年生の獣魂~The Beast spiritでは、クマの着ぐるみの背中に小さなテディベアがたくさん縫い付けてあり、クマが後ろを向いて背中を見せるたびに客席から笑いが起きる。そういう楽しさもある。ここではネズミだったか、グレーの衣装をまとった生徒が途中で動物柄のフードが外れてしまい、素の頭丸出しでしばらくパフォーマンスをしていたが、あるタイミングでジャンプをしたらそのフードがすっぽり頭にかぶって動物に戻ってしまった。これ、計算して演じていたとしたら、すごい演技力だ。(劇団四季のミュージカル見学が学校行事に組み込まれているが、そういう影響も相当大きく受けているのだろう)
終演の前、「花鳥風月」の幕間にロビーへ出る。最後まで見たかったが、教室の都合があり残念。ロビーには衣装担当の先生と山本先生がいらして、少しお話させていただく。
中山学園はファッションがあるから、ということで逆に「自分はファッションには興味が無いから」と本学を敬遠する生徒もいるかもしれないが、中山学園で1年生が全員参加でファッションショーに登壇するのは、それを通して創作する楽しさ、ステージにのぼる勇気、人前でパフォーマンスをする度胸、人同士の絆と助け合い、人間として一段階ステップアップ(脱皮)するためであって、これは目的であって目的でない。チャンス(きっかけ)だ。表舞台に出る生徒も、大道具や受付スタッフなどの裏方を担う生徒も、それぞれがこのイベントから大きな人生上の財産を得ていくことになる。
そして、先生方は裏方に徹し、決して表に出て来られることがない。「不登校だから」「中学時代苦労した子たちだから」と哀れみの目線で生徒達を活躍させようとしていたり、過剰な保護があるわけでもなく、百段階段を3段目から97段目まで一気に飛び登らせてしまうような、そんな叱咤とリスペクトが、学校から生徒たちへ愛情として向けられているような気がした。中学生を一気に大人に押し上げてしまう。
客席で観覧している出演しない生徒たちでさえ、楽しむ場面は楽しみ、慎む場面では慎んでいる。TPOがきちんとわきまえられている。先生が「おい、そこ静かにしなさい!」なんて発することは一切無い。良い生徒たちだ。
パンフレットには「(中略)…何度も何度もひたすらに練習に励んでくれました。この事をご理解頂きますと、生徒の多大なる成長に驚異を感じ、楽しんで頂けると思います。また、ここまでのプロセスを皆で経験し、友達との絆を感じ青春の貴重な1ページとなって欲しいと思っております」と三雲校長の言葉がある。その通りだと思う。
中山学園の底力と真骨頂を見た、あっという間の2時間だった。
(追記)
舞台装置、大道具、小道具、音響、照明、演出、どれも完璧で、専門のイベンターが入っているのでは、と思うくらいにノーミスで完成されたステージだった。例えばMCの生徒が次の演目を紹介し、そのMCのスポットライトが落ちるまでの0コンマ何秒の間(ま)でさえも絶妙で、学園祭とは思えない凄いものを見てしまった。