JR船橋駅南口から徒歩7分、モスバーガーの少し先の路地を左に曲がると中山学園高校が見えてくる。本校は通信制課程で、平日スクーリングコース(全283名)と土曜スクーリングコース(全46名)が設置されている。平日コースの方は週5回の通学となり、全日制高校とほとんど変わらない。
本校は東校舎の4階にバスケコート1面程度の小規模な体育館があるのみで、グラウンド等の体育設備は他に持たない。そのため、体育の苦手な生徒にとっては有り難いと言えるし、逆にスポーツ好きな生徒にとっては物足りなさがあるかもしれない。
中山学園は中学時代に不登校だった生徒の受け入れに力を入れており、生徒のうち5~6割は中学時代に不登校を経験している。もちろん中学全休の生徒もいる。不登校を経て自信を失ってしまった生徒が、本校に入学して明るさと自信を取り戻し、毎日元気に登校するようになるのだ。
もともとは昭和23年に洋裁の専門学校として創立されており、近隣にはユニバーサル・ビューティーカレッジという系列校がある。2004年に専門学校と高校が分離され、それまでは高校部もサポート校の扱いだったが、この時に認可を取得して単独校として現在に至っている。今、校舎内を見渡すと、天井にミシンの電源を取るためのコンセントが多数設置されていたりするが、これは服飾専門学校の名残である。
学校行事を見てみよう。1年次には入学後すぐ、君津亀山少年自然の家での合宿を実施。遠足ではディズニーランドへ。全員参加の学校行事を経験することで集団行動の大切さを学ぶようになる。友達づくりを通してコミュニケーション能力を高め、生徒一人ひとりの自立心も養う。
船橋アリーナで行われる球技大会では、男子はフットサル、女子はバレーボールの試合が組まれるが、運動の苦手な生徒も多いため、女子バレーはビニール製のボールで戦う。ちなみに通常の体育の授業でも、運動が苦手で中学時代にそれが原因でからかわれた生徒もいるため、無理に参加はさせない。見学させたり体育館脇の机で勉強させたりして生徒の気持ちをほぐしながら、そのうちに楽しそうだな、自分も参加出来そうだな、という気持ちを引き出させて自発的に運動に参加するようにさせている。
冬はスキーを体験するが、こちらも国立の少年自然の家に宿泊することで、経済的負担を極力抑えるように配慮されている。2年次には富士山登山。芸術鑑賞では劇団四季のライオンキングを鑑賞する。こちらも費用は3,000円と通常料金より格段に抑えられている。
3年次の修学旅行はグアムに行く。ここでは外国人との交流だけでなく、自分達の足跡を残すための「植樹」も行う。尚、往復の飛行機ではCA(客室乗務員)から「礼儀正しく、生徒一人ひとりが目を見てあいさつの出来る素晴らしい学校だ」と褒められることが多いという。卒業前は幕張のホテル・マンハッタンにてテーブルマナー教室を開催。
他にも、月1回の日曜日には任意で船橋駅前のゴミ拾いボランティアも行うし、全員参加で錦糸町の本所防災館を訪れて地震体験・AEDや消火器の使い方の訓練を行ったりもする。また、今年からAAE(アニマル・アシステット・エデュケーション)という動物との触れ合いを通じた「いのち」の授業も実施され、ここで笑顔を取り戻す生徒も少なくないらしい。文化祭は船橋市民ホールでのファッションショー。これらの各種行事を通して、「初めて自分の居場所ができた」と、学校に通うことの喜びを実感する生徒が増えていく。
本校の説明会では、本校卒業生であり現在教諭となられている若手の山本先生が「人生グラフ」としてご自身の経験談を語られる。中学校を不登校で全休されていた山本先生が、ご自身の経験を現役の高校生たちに惜しみなく還元されているのだ。教育者として、これほど崇高な実践は無いと言えるだろう。「人生は何回でもやり直せる。人生は山あり谷ありだということを生徒たちに伝えたい」・・・山本先生の談。
カリキュラムを見てみよう。1年次は共通科目を履修するが、中学校の復習から始まる。2年次からは「普通」「商業」「服飾」の3コースに分かれる。「普通」コースは進学志向となり、千葉商科大などの指定校推薦枠を獲得することも可能。「服飾」コースからは、毎年2~3名が系列校のユニバーサル・ビューティーカレッジへ進学している。
「身だしなみ」と「掃除」の大切さは生徒たちに徹底させており、衣服が乱れ、生活面が崩れている子はそもそも入学させない。退学者は年に1桁程度。「もっとはじけたかった」という生徒、または病的に不登校傾向の強い生徒(国府台病院への長期通院)などがそれに当たるということなので、本校で順調に過ごせる生徒が退学することにはならない。
入試だが、英・数・国の3教科、それぞれ20点以上は欲しい。これが取れない生徒は、入学後も授業についていけない可能性が高くなる。なので、学習障害を抱える生徒が本校を志望する場合は、この点での慎重な見極めが必要になる。推薦入試は不登校の生徒でも可能。作文テーマは説明会に自分で参加して確認すべし。
納入金については、不安があれば説明会で相談すればよい。生活保護を受けている家庭も通学しているようだ。
生徒たちは1年生が本校舎、2年生が離れた南校舎、3年生が東校舎で過ごしている。小規模校舎が分散しているのだが、それぞれに職員室があり、それぞれがこじんまりとしている。また、驚いたことに本校舎の上階には理事長先生が住まわれているとのこと。校舎の階段に「ここから先は上がってはいけません」とあり、覗いてみたら確かに邸宅となっていた。小さな校舎でも、調理室、コンピュータ室、保健室など、施設・設備は十二分に整っている。
本校はこのスケール感がちょうどいいのかもしれない。アットホームな雰囲気で、そして本校勤続30年の三雲校長先生をはじめとする、一本筋の通った凛々しい先生方にひとたび触れてみるならば、この先生方に是非とも生徒を託したいという気持ちがわきあがってくるのである。
(11月14日訪問)