郁文館夢学園(文京区)

2018年6月20日の訪問記事はこちら
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東京メトロ千代田線千駄木駅から徒歩10分。改築中の日本医科大学病院と「つつじ祭り」開催中の根津神社に近接しながら、閑静な住宅街に位置する郁文館夢学園。今年で創立126周年を迎えた。

創立家の棚橋一族による経営問題があり、2003年にワタミの渡邉美樹氏が本校を引き継ぐ。現在渡邉美樹氏は本校の理事長として、「夢教育」を掲げながら本校を牽引している。校舎は2009年に改築され、地上3階・地下4階でコンパクトながら凝縮された楽しい建築になっている。かつては男子校であったが現在は共学化されており、今年度の高3は共学1期生。

渡邉美樹氏の参議院選挙出馬、ワタミに対するバッシング(ブラック企業問題)、2012年に起きた校内での事故、これらの原因により2013年、2014年と受験者数・入学者数は激減。昨年の塾通信では本校について「自信喪失状態」と書いたが、本当にドン底の状態だった。しかしそれも昨年に底を打ったようで、今年は回復傾向にある。入学者数で見ると、中学は微増だが、高校は2倍に伸ばし、グローバル高校も過去最高の入学者数となった(90→130)。

「3月11日の震災発生時、校内で教職員と生徒が一夜を過ごしたのだが、食事をどうしようか、非常食でも食べるか、となった時、調理師免許を持つ教員が食堂の厨房で麺類や野菜の材料を見つけて手際よく調理して生徒たちに振舞ったという。その先生は元、居酒屋和民の店長だったという話」。これは2011年の塾通信に書いたエピソードである。ダイナミックさ、元気の良さが全面的にフル回転していたのが2011年までの本校だったといえよう。校内での事故はその元気さの裏返しだったような気もする。

先述した諸条件が重なり、その後のドン底状態を迎えるのだが、今年はどうやら雨上がりの青空のごとく、厄抜けしたような空気が本校に満ちている。むしろ、酸いも甘いも経験しながらも、一段階成熟した学校に進化したと言って良いだろう。何があろうとも地道に続けてきた教育実践の成果が開花し始めている。今春の大学合格数で見ると、国公立18・早慶上理22・GMARCH85となっている。同じ偏差値帯の高校で比較すると、都立城東で国公立10・早慶上理22、都立文京で国公立7・早慶上理18。同じ偏差値帯の学校に行くならば私立の方が出口の結果は単純に良い、というのはこういう数字から裏付けられる。

カリキュラムとしては「徹底した基礎学力」を養うことと、「アウトプット(英語・ディベート・小論文)能力」を高めることに力点を置いており、結果としてグローバル力(異<い>なるものとの共生)を養うことを目指している。

グローバル高校に関して言えば、海外大学への志望率が高く、対生徒数で見る合格率も23%。ちなみに関東国際9%・安田学園0%・駒込0%・都立国際3%という数字であるから、「郁文館グローバル高校=海外の大学を目指す高校」と位置づけて間違いないだろう。グローバル高校は元々商業高校から国際高校への改編を経て今日に至るが、初年度は21名の在籍中7名を上智大に合格させている。そこから徐々に規模を拡大し、今年は130名の入学枠となった。入学後は1年間の海外留学が必修となっている。ちなみに国際系高校といえば帰国子女を受け入れるイメージがあるが、本校は帰国子女ではなく、「純日本人が海外を目指す」学校だ。

これに付随して、中学校でもGL(グローバルリーダー)クラスが設置された。HRは英語で行い、副担任もネイティブスピーカーが就く。中1生には留学を終えた高3生が一人ひとりサポートについたり、5週間のニュージーランド短期留学が必修となる。

学校全般の話に戻すが、
本校には正面受付の横に教員一覧の顔写真パネルがある。私は毎年これを眺めるのが好きだ。先生方がそれぞれ、大勢の中の一人としてではなく、一人ひとりの高い自覚を持った教員として本校に従事されていることが強く伝わってくる。棚橋一族からの経営移譲にあたっては退職された教職員も多かったようだが、現在は平均年齢40代前半でとても若々しく元気な印象だ。

お一人お一人の先生方と接していたら、『よき教師である前に、よき社会人であれ』という言葉がふと私の脳裏に浮かんできた。ドアの開け閉めなど、ちょっとした振る舞いに「よき社会人」を感じさせるのは、実業家である渡邉美樹氏の指導力によるところが大きいのだろう。正しい社会性を備えた人物が教員になることが、今の時代ますます肝要である。

校内を見て回っても授業中に居眠りをしている生徒もおらず、みな姿勢が良い。私のような見学者がウロウロしていても、よそ見をする生徒はほとんどいない。授業に臨む心構えが、教員にも生徒にもしっかりと浸透されているのだろう。廊下には生徒の日誌が掲示されていたが、生徒がA4版のノートの見開き左ページにびっしりと日誌を書き込むと、右ページには担任の先生が返答をページいっぱいに書き記しているのだ。先生の熱意に頭が下がるばかりだが、これは容易に真似の出来ることではない。

本校は「活気にあふれた時期」、「ドン底の時期」、という2つの時期を経て、今第3期の「骨太な学校」に成熟しつつあると言って過言ではないだろう。果物の熟れたちょうど良い食べ頃の時期というものがあるが、本校は今そこにいるような気がする。

最後に、本校を見学する際には是非図書館を覗いてもらいたい。
蔵書29,000冊のうち、9,000冊が1階に配架されている。この1階には鮮度の高い新刊本を多く並べ、生徒でなくても大人でも「楽しい!」と思わせる構成になっている。地下1階には通常の蔵書形式で配架されているが、この1階の楽しさは郁文館夢学園の「生きた教育」の心意気がストレートに伝わってくる。

蔵書10万冊あります、とか宣伝していてもカビ臭い、もはや誰も手に取らないであろう古本を並べて広さだけ誇っている学校図書館は数多あるが、「生きた図書館とはこういうことだ」ということを、是非本校の図書館から学びとりたいものである。

(2015年4月30日訪問)

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