受け身の限界

今春卒塾したMさんについて書いてみる。

Mさんは中1の3学期を終えた時点で某市進学院から転塾してきた。入塾直前となる1年学年末の学年順位は210人中、数学130位、英語105位となっている。市進偏差値は数学35、英語37だ。まあ市進偏差値なので進研偏差値に比べれば厳しめにつけてあるが、それでも市進順位で見れば数学2345人中2164位、英語2345人中2048位である。

そこからのスタートということで、いつもの神尾塾流に過去にさかのぼりながら一段ずつ積み上げていく学習法で、学年順位は数学10位(3年1学期)、英語1位(2年学年末)まで持っていった。2年生の秋頃からは5科の自習課題を用いながら国語・理科・社会も同時並行で進めていく。その結果3年6月の初回Vもぎでは5科の平均偏差値が63まで届いた。この時点で鎌ヶ谷高S判定、船橋東高A判定と出ている。

夏になれば多くの生徒が本格的に受験勉強に参戦してくる。彼らの追い上げも激しさを増す。比較的余裕のある状態で、勢いを保っていけば高校受験はそう悲観することにもならないだろう、そう考えていた。

ところがだ。
3年生の夏休みを迎える前の期末試験、理科の問題2ページ目をごっそり見落とす失態を犯してしまい、理科順位をそれまでの20位から125位に急落させた。また、塾の守備範囲でなかった実技教科の手抜きが目立つようになった。音楽146位、技術家庭183位という記録が私の手元にある。通知表も実技教科の2が目立つようになった。「関心・意欲・態度」の項目もCが付いており、どうやら提出物をまともに出していなかったらしい。

入塾から1年と4ヶ月が過ぎていたが、ここに来てようやく気づいたことがあった。それは、Mさんは「指示されたことには忠実であるが、指示されないことについての自主的な判断力に弱さがある」ということだった。これまでは入塾以来、授業と課題をきちんと消化しさえすれば目に見える形で順位を上げることが出来た。それはそうだ。神尾塾の授業は、特殊な事情がある場合を除いて、基本的に「上げる」ように仕組まれている。

しかし、高校受験はそんなに単純ではない。「受け身」になって与えられる勉強と、自分でバランスを考えながら自主的に取り組まなければならない勉強。この両者を同時に使いこなせる者が高校受験を制するようになっている。(高校受験だけでなく、人生全般にも同じことが言えるのかもしれないが)

実技教科やワーク提出といったものはこの中の最たるものだろう。ここの「意識」に塾がどこまで踏み込んでよいのか、私の中でまだ結論を出せない部分がある。そこまで細かく大人が手出しをしてプログラム化して義務的にさせるべきなのか、それともそこまで考えの及ばない生徒は最早そこまで、とあきらめるべきなのか。

「定期試験前や提出物の期限に対しての危機感や、漠然とした恐怖感が今の子供たちには少ない」というのはこの3月に面談をさせていただいたご家庭との間で多く出てきた話だが、授業を提供するという学習塾の取り組みの一歩先の話として、非常に悩ましい問題である。