きっかけをつかむ

K君は高校受験を終えて塾を卒業、県立高校に進学した。中学校ではサッカー部に所属していて、高校でもサッカーをしたい意欲が強かったのだが、実際に進学して入部後、何かがあったらしく程なくして退部してしまった。その後は放課後になるとアルバイトに行っていたらしい。

そんなこんなで時間が過ぎ、高校3年になって大学受験の勉強を始めたのだが、どこに目標を定めて良いかが分からない。センター試験の2ヶ月前くらいになって、K君のお母さんから相談に乗って欲しい旨の連絡を受けた。

塾の授業が終わった22時半頃からK君と面談をすることになった。それまでも年に1回は塾に顔を出してくれていたのだが、今回は余裕の無い表情で、まさに「どうにかしたいけれども、どうしたら良いのか分からない」状態だった。本人の好きなこと、得意なこと、してみたいこと、現在の成績、あらゆる状況を見つめていく中で学部学科と受験する大学の選択肢を見出すこととなった。

その後、K君はT大学の経営学科に一般受験で合格して、現在は八王子のキャンパスに通っている。八王子は1年次のみで2年次からは東京の茗荷谷に移るのだが、祖父母が埼玉の秩父におられるので、1年間は白井からではなく秩父に居候させてもらって通学している。

今では「冒険部」という体育会色の強いサークルに所属し、1年生ながらに関東学生連合の役員も務めて、他大学の学生とも交流を深めるまでになっている。昨年はインドネシアでキャンプをしてきたそうだ。この春は八丈島での野外探検を1週間かけて行うらしい。費用は1万5,000円と。

聞くところによると、大学生のうちはアルバイトはしない、という。何のためにアルバイトをするのか、という目的をきちんと定めておかないと、時間の無駄になる。だから今は親のすねをかじり尽くさせてもらって、卒業後に両親には恩返しをするという。

高校時代のサッカー部の退部という挫折(?)を経験し、アルバイトもしてみたことで、K君なりに悟るものがあったのだろう。また県立高校ならば先生方が生徒の進路についてとかくリードすることはなく、あくまで生徒の主体性に任せるのが公立高校の特徴である。そのような比較的自由な海の中で泳いできて、場合によってはそのまま流されて自分がどこかへ行ってしまうかも分からない。

K君はちょっとしたきっかけをつかんで、現在は充実した学生生活を送っている。「T大学は国際交流が盛んなので、自分もどんどん海外に行きたい」とも語っている。「大学に入る前は、どこが偏差値どうのこうのと言っていたけど、実際に大学生になって他大学の学生と付き合ってみると、そんなに大差は無いですよ。結局、自分がその大学で何をするかという意志の問題だけです」。いいこと言うじゃないか。

授業の出席や学期末の試験、単位の取得についても、義務とかやりなさい、と言われたから真面目に受けるのではなく、そこで学んでいる意味を自分なりに考えてみれば、そういうことをきちんとする方向になっていく。そんなこともK君は言っている。

大学4年間は、ボーっと過ごすことも出来るし、法に触れることでなければやりたいことを何でも出来る4年間でもある。それを選ぶのは自分次第だし、結局その後にどういう人生を歩んでいくか、その縮図が大学生活なのだろう、とK君と話しながら私は思った。