昔の話だが、墨田区のあるご家庭に家庭教師としてしばらく通った。私にとっては初めての「アスペルガー症候群」(※1)の生徒、S君だった。
S君は当時中学3年生だったが、特有の「空気が読めない」特性(※2)のため、不用意な発言をしてしまうことが多く、友達から仲間はずれにされて不登校になっていた。通常に1対1で会話を交わす分には問題ないのだが、勉強面では数学において特徴がよく出てきた。計算問題でも文章問題でも、問題文を目にするとジッと腕組みをしたまま頭の中であれこれと数分考えて、最終的な答えだけを答案用紙に埋めていくのだ。
この特性を持つ子は、書くという作業をつくづく嫌がる。一般の人間が途中式を書かないと思考を進められない問題でも、彼らはそれを頭の中だけで処理してしまう。もちろん、これには問題があって、時間が掛かリ過ぎることと、必ずしも結果が正確とは限らないということだ。
だから、正確さとスピードを求められる現代社会では、彼らの特性は価値を持たないことになってしまうのだが、正解する問題も少なからずあるわけで、そういう意味では「天才的」だと言えなくもない。
※1:他の発達障害と共に、「自閉症スペクトラム」という呼称に近年統一されつつある。
※2:例えば、彼らは太っている人に「2-3日何も食べなくても平気じゃないですか」?と言ってしまう。彼らにとっては、「自分は正しいことを言っているのだから、その何がいけないの?」と、言われた相手の心情を「思いやる」ことや「察する」ことが出来ない。