明星学園中学・高校(三鷹市)

■2013/06/19

かつて都内で教えていた時の生徒に平井君という男の子がいた。かなり独特なタイプで、「三丁目の夕日」のような昭和の町並みの絵を描くことを得意としていた。
その彼が6年間通っていたのが明星学園だった。例えば数学のルートの計算でも、素因数分解を使わずに、独特な、しかも一般に普及している方法よりも分かり易い解法を授業で行うという、私にとってはそんな独特なイメージのある学校だった。今回、きっかけがあって本校を訪問することになった。

JR吉祥寺駅(三鷹駅から東京方面へひとつ手前)から徒歩15分。駅前から明星学園前行きの小田急バスに乗り、途中井の頭公園のうっそうとした深い森の中、三鷹の森ジブリ美術館の脇を抜けながら、10分ほどで本校に到着する。実は私は往路を京王井の頭線に乗り、吉祥寺駅からひとつ隣りの井の頭公園駅で下車して13分程度歩いたのだが、この方法はやめた方がいい。幸い私はiPhone頼りにGPSで地図確認しながら住宅地の狭い路地を切り抜けたが、GPSが無かったらまずたどり着けなかったと思う。本校へは吉祥寺駅・井の頭公園駅どちらから歩いても井の頭公園の森を通過することになるが、この地域は東京とは思えない最高の自然環境を保有している。

本校は小学・中学校舎が井の頭キャンパス、高校校舎は牟礼キャンパスに分かれている。井の頭キャンパスは広くはない校庭を、比較的新しい小学校舎(昼食の売店を含む)と、年季の入った中学校舎、体育館が囲んで建っている。(ちなみに食堂は高校校舎にあり、井の頭キャンパスの生徒はそこから予約制で温かい弁当を取り寄せることが出来る)

共学である本校は制服が無く、私服登校となる。1924年創立、大正デモクラシーの中で自由教育運動が起こった、その理念に基づいて学校運営がなされている。その理念とは「個性尊重・自主自立・自由平等」。ただし、束縛がない・色んなことが許される・勉強しないのも自由、ということではなく、「自分や回りの人たちがより幸福になるように、自分のとるべき行動を熟考して選ぶことが自由」と定義している。

具体的には、
◎進路実績を優先させていく学校ではない。
◎知的な活動・文化的な活動・自治的な活動に主体的に取り組む。
◎何か好きなこと、興味があること、続けていることがあって、それを伸ばしていきたい子を求めている。
◎物事の本質、基礎基本を学び、自分の頭で考え、判断する力をつける。明星学園の自由は「思考の自由」を意味する。

この辺りが本校の特徴をつかむ鍵となっているであろう。本校の良さは、首都圏模試などの偏差値一覧表からは理解することはできない。

「共同性」ということを本校は大切にしており、発達に関する悩みを抱えている生徒が集団の中で円滑なコミュニケーションが取れない場合でも、特別なプログラムを組むことなく、授業と教科外活動の共同性の中で生徒を育てることにこだわっている。

ちなみに発達の悩みを持つ家庭から問い合わせを受けることもあるそうだが、実際インターネットの口コミ情報を見ると本校が発達の問題に対応しているという書き込みが散見される。しかし、本校がそれに対応しますよ、と宣言している訳では全くなく、あくまで本校の教育がそういう発達の悩みを抱える子に好効果を及ぼして、それが口コミとして拡がったのではないかという、校舎案内をしてくださった先生の談。発達の悩みを持つ生徒にとっては、あくまで入試説明会での個別相談、または入学試験での適性審査を経て慎重に判断をしていく・されていくことになる。

さて、本校のカリキュラムとして特徴的なのは、まず中学校では「課題解決型」の授業であるということ。これは暗記重視のものではなく、「自ら考え」「自ら感じ」「自ら表現する」ことに力点を置いている。よって一つのことをじっくりと考えることの好きな生徒にとっては理想の授業となるだろう。中学では卒業研究を行い、個々に設定したテーマをプレゼンテーション出来るようにまとめていく。一例を挙げると「なぜ夕焼けは赤いのか」「なぜ宮大工のつくる建物は1000年を超えても強度を誇るのか」。なかなか、濃い。

中学3年間、美術とは別に「木工・工芸」の授業が週2時間用意されている。自分で設計した家具の製作、「織り」と「染め」といった製作を通して集中と根気を養う。

高校では選択科目が年次ごとに増えていく。1年次で15%、2年次で30%、3年次で90%が選択科目となっている。この内容がまた面白い。「人文系テクスト読解」「モダンエッセイズ」「文学批評」「服飾デザイン」「華道」「染色」「幼児教育」「中国語」「CGデザイン」「版画」「ソルフェージュ(音楽)」などなど、カリキュラムを見ているこちらがウキウキしてくるラインナップだ。このような各種の専門的な分野に高校の時から親しんでおけば、将来の進路選択を考える上でも貴重な手がかりとなるはずである。

教科外活動としては、中1で八ヶ岳登山、中2で新潟の民家泊、中3で沖縄民家泊。単なる観光ではなく、農業に従事したり、食事を作ったり、体験しつつ自分の頭で考えなければならない状況を必然的に体験させている。また、中2では私学では珍しく、5日間の職場体験を行う。

通学区域は、遠方では市川、幕張、埼玉から片道2時間をかけて通学している生徒も複数いる。

高校卒業後の進路だが、4年生大学57%、短大3%、専門学校9%、留学3%、その他28%となっている。(明星大学は本校とは無関係)
その他、というのは浪人のことだが、中高6年間を明星学園で最大限に過ごし、その上で自分の人生、進む道をじっくり腰をすえて考え、卒業後の1年間予備校に集中して通いながら希望する大学を目指す。これは、私のような外部の人間から見れば「カリキュラム上そうなるだろうな」という思いと、「明星学園だからこそ、人生の時間を大切にしながら予備校で過ごす1年間を積極的に選び取っていく!」という肯定的な見方の両面がある。私個人としては後者の比重が強いし、本校の先生方は後者を強調されていたように思う。

本校は何よりも「自分で考える」姿勢を培うということが本当に教育として達成されているのだと強く感じた。

説明会で質疑応答があっても、一人ひとりの先生方は「自分でまず考え、それから自分の言葉でそれを説明していく」これをまざまざと見せ付けて下さった。また、先生方それぞれ、自分の領域の中で、自分=明星学園として、思いっきり手を大きく広げた状態で最大限に出来るだけのことをやっていこう、という覇気(気持ちの強さ、芯の強さ)を非常に強く印象づけられた。

サラリーマン的に、「それ、私の管轄ではないので…」という他校で時々見られるような消極性などは、本校には微塵(みじん)もない。先生方の真剣な表情、「自分で考える」姿勢が人生そのものになっている姿。これに感化されていく生徒たちは、将来の自分の人生を自分でつかみ取っていくのだろうと、その学校生活がうらやましく思えた。

一言でいうと、「感動」のある学校である。

■2013/09/11

今回は高校校舎(牟礼キャンパス)への訪問。前回6月19日の中学校訪問については前回記事を参照されたし。

この前回の記事を踏まえて、本稿は補足を記していく。
牟礼キャンパスは高校専用の校舎で、一部部活動で中学生が高校生と一緒に活動することもある。新しくはない口の字型の低層校舎に教室・食堂等各種施設が配置されている。小・中学校のある井の頭キャンパスよりは狭く感じるかもしれない。

高校も制服はなく私服であり男女共学となっているが、高校部は茶髪の生徒が「少なくない」。多少元気さが噴出していた中学部と異なり、高校部はみなそれぞれ真剣に授業に向き合っている。私はアメリカンスクールのことはよく知らないが、日本人が想像するアメリカンスクールのイメージ、とでも言えば本校高校部の雰囲気がつかみやすいかもしれない。だから本校ならば茶髪もアリだろう、と感じてしまう。

卒業生のうち3分の1は「表現系」の進路へと進む。これは普通科の高校の進路としては珍しいことのようだ。しかし本校の独特のカリキュラムからすれば、確かにそうなるだろう。今春の進路内訳は4年生大学139(57%)、浪人67(28%)、専門学校23(9%)、短大8(3%)、留学7(3%)となっている。くれぐれも、前回訪問の記事を読んだ上でこの数字をどう評価するか、だ。

「進路は結果ではあるが進路実績を稼ぐ学校ではない」という本校のスタンスと、本校の教育理念・具体的な授業内容を見れば、充分納得出来る進路状況だと私は思う。

さて。牟礼キャンパスの正門を出ると、目の前には玉川上水が流れており、川の側壁がうっそうとした木々で覆われている。沿道もアスファルトのない緑道になっており、ここをしばらく歩くと井の頭公園に吸い込まれていく。この日はちょうど涼しく湿度の低い気候で、公園を歩くには最高の日和だった。井の頭公園をゆっくり歩くのは小学校の遠足以来だと思い出しながらも、歩くごとに緑から池、噴水とめくるめく景観が変化していくのがこの公園の一番の魅力だ。

歩く途中には個人経営のちょっとしたカフェもあり、公園を抜けると吉祥寺駅に向かう商店街となっている。商店街といっても、エスニックな家具やアクセサリーを扱う店、スターバックスなど、さすが東京・三鷹の上品なストリートに仕上がっている。明星学園を出て15分強。天気によってはバスに乗らずに駅から歩くのも大変楽しく豊かであるし、明星学園の校風と三鷹の森のロケーションが見事に融けあっている。

本校は生徒の個性・志向によって向き不向きは二分されるだろう。ただ、人間に生まれ変わりがあるのなら、人生のうちの一回はこの学校で過ごしたいと思える学校である。

この記事を書いた人

kamiojuku