世界の子どもと教育の実態を日本人は何も知らない

7月15日発売の新刊。
イギリス在住の著者が、息子みにろま君の子育てを通して海外と日本の子育て環境を比較していく。

私が関心をもったのは第6章。
イギリスでは学校教育の初期から「自分で調べて発表しなさい」というアウトプットに比重を置いた教育が重視されているようだ。

ところが反面、インプットする量や機会が日本に比べて乏しく、知能レベルが高くて好奇心の強い子どもにとってはアウトプット重視の手法で成果を得られるが、自分で調べたり勉強したりする気力の薄い子どもにとってはインプットもアウトプットも、どちらも学ばず仕舞いになってしまう。したがって、イギリス人の多くは日本人に比べて基礎的な知識に欠けていて、全体的な教養レベルも低いという。

ここまで読むと、検定教科書の存在しないイギリスに比べて、学習指導要領にしたがって網羅的なインプット教育が行われている日本を否定的に見る必要はないことに気付かされる。

また、イギリスではアウトプット型の教育を重視し過ぎたため、基礎的な計算力や数学的な考え方が身につかず、働く人の算数力の低下をもたらしてしまった。その結果、数学を必要とする仕事を外国人労働者で補ったり、IT系のプログラマーにインド人や雇わざるを得なくなった。

著者はこう語る。

—(抜粋ここから)
「日本の有識者の方々の中には、アウトプット重視のイギリスのような教育や、アメリカの教育を絶賛する方がいますが、それには数多くの脱落者がおり、全体としての国力が低下する可能性があるということも議論をするべきでしょう」(P.199)
—(抜粋ここまで)

もう一点は、歴史教育

イギリスにおいては、第二次世界大戦は「明るい勝利」「枢軸国(ドイツ、日本、イタリアなど連合国と戦った国)からの解放」が主要なイメージとなっており、偉いのは戦勝国であり、勝利を祝うのは当然だ、という視点が中心になっている。

日本の歴史教育では、戦争における犠牲や生命の尊さを悲惨なエピソードや映像を見せながら情緒に訴えかけていくが、イギリスではそういったものを見せることが一切ない。

—(抜粋ここから)
「あくまで第二次世界大戦は枢軸国が全ての悪で、彼らが戦争を始めたのが悪い、最も悪いのはドイツであり、そのドイツに協力した日本も極悪な国であるということを、教材には淡々と書いてあるのです。当然、原爆が戦争を終わらせるために必要なものであったということもさらっと書いてあります。原爆投下による後遺症の存在や、死者の大半が一般市民であったことなどはほぼ無視されています。

(中略)

あくまで戦いに勝ったことがいかに素晴らしいことで、ナチスから世界を解放したことはヒロイックな行いであったということを、繰り返し繰り返し教えます。

(中略)

歴史教育というのはその国によって全く異なっており、同じ事柄を扱うにしても見方が全然異なっていたりします。つまり子供達は同じ時代を学んだとしても、どの国で学んだかによって全く違う見解を持って育ってしまうということなのです」(P.202)
—(抜粋ここまで)

イギリスの歴史教育はいかに自国がすごいか、という主張が前面に出ており、それはまるで日本の戦前の教育そのものだ、という。日本は戦前戦中と戦後が分断されるが、イギリスでは第二次世界大戦で敗戦を経験していないから、戦前の歴史観がそのまま今でも息づいていることになる。

こういった観点は確かに、日本の中にいると気づかない。

『みにろま君とサバイバル~世界の子どもと教育の実態を日本人は何も知らない』
谷本真由美・著(集英社)

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