私の駆け出しの頃に勤務していた学習塾で、S君という小6の男の子がいた。中学受験のために週3~4回通塾していたが、教室長から教科書準拠のワークを見てあげるよう指示を受け、週1回私が見ていた。
で、10月、11月と受験期が近づいても準拠教材のままだ。教室長に「過去問を着手した方が良いのではないか」と尋ねるが「受験対策は私(教室長)が土曜日にしているので大丈夫です」と返答された。S君は素直な性格だったので、塾を信じて準拠教材であろうが真摯にこなしていた訳だ。
翌2月、受験期を迎えてS君はすべての入試で不合格となった。
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このエピソードは今でも私の記憶の中で胸が痛む。
①算数準拠A先生、国語準拠B先生、受験対策C先生のように授業を分業化することで先生側の責任の所在があいまいになり、通貫した指針も据えられていなかった。
②準拠教材(基礎的な学習)は遅くとも秋の初めには切り上げる必要があり、実戦問題を数多くこなすべき時期にそれをしていなかった。
③第一志望はともかく、併願校が適切であったか。
これらは塾の規模に関わらず、上手くいかないパターン<あるある>と言えるだろう。
明らかに塾側の落ち度であるが、保護者の方からは「うちの子の力不足です」と謝罪が入り、当事者であるS君自身にも多かれ少なかれ<心の傷>が残ったかもしれない。
このように、本当は大人側の問題であったものを、弱者である「子供のせい」にして論点をすり替えて誤魔化してしまう(大人自身が防衛本能を発動してしまう)ことは世の中に少なくないのではないか?