旧教室で移転作業をしていた2月23日の夜、ひょっこりT・K君が教室に現れた。
T・K君と言えば「牛丼これは牛の命です」。この言葉のインパクトで塾通信に鮮烈な記憶を残したのも今から4年前である。
そのT・K君が今春高校を卒業し、なんと首都圏を走る東武鉄道に就職が決まったという。まずは駅務からスタートし、その後車掌、やがては運転士を目指します!と宣言してくれた。「すごいじゃない」3年ぶりのT・K君の成長ぶりに私はただ驚くばかりだった。
T・K君は中学卒業のタイミングで卒塾し、その後高校では園芸科に進み、フォークリフトや園芸関係の資格をたくさん取得した。アルバイトは3年間、近くのサイゼリアで続けた。今年に入ってからは教習所に通い、4月1日の押上本社での入社式までに運転免許を取得する。塾に訪問してくれた日は仮免を取った直後だった。
面白いエピソードを聞かせてくれた。
卒業旅行で友達と自転車で千葉県の房総半島一周を目指した。太平洋に面する銚子に行くはずだったが2月14日は雪で途中の成田で足止めを食らってしまい、成田空港に降り立つ外国人向けの宿泊施設で一夜を過ごした。その後天候が回復して、海沿いに九十九里浜の古いホテルまで。そして太平洋から東京湾側に抜けて、岩井という内房の町にある祖父の自宅へ。そこで友達が疲れて寝込んでしまい、出発が遅くなってしまったので、岩井から北上した五井で野宿をしようと思ったが、寒すぎるのでコインランドリーで泊まろうと思ったら、近所のおばちゃんが声を掛けてくれて、市原にある館山自動車道のサービスエリアに外から入ることが出来て夜を過ごせた、と。
千葉県内とはいえ広大な房総半島。そんな数百キロの道のりを友達と自転車で駆け抜け、まるでサバイバルゲームのように生き延びて帰着したT・K君の武勇伝話に思わず聞き入ってしまった。
T・K君はこんなことを言っていた。
「塾で学んだあいさつ、物の渡し方、靴の揃え方、これが貴重だと、高校に行って、アルバイトに行ってみてよく分かった」「高校でもこれらが出来ない人はとても多いし、出来ていなくても誰も教えてくれない」と。
そういえば塾がまだ神社にあった初期の頃、当時入塾してきた小学6年のT・K君の襟首をつかんで「出ていけ」と私は怒鳴ったことがある。T・K君はその時のことを今でもはっきり覚えているという。「入塾して、字が汚いと怒られてよかったです。あの時、自分の甘さに気付いたから・・・」
T・K君は中3の作文講座でこんな文章を書いている。
この話は今春の卒塾感想のY・Uさんのお母さんが書いて下さった
にも通じる話だ。
「先生には勉強の事だけではなく、常識的なこと、礼儀等も教えて頂きました。初め、これが勉強とどう繋がるのか…と疑問でしたが、丁寧に問題を解いたり、ケアレスミスをなくすように気を付ける意識を持つこと等、普段から、生活面においてしっかりしていることが大切だと、痛感させられました」
字が雑な子は頭の中も雑になっているから整理が出来ず、結果として思考が混乱して勉強も頭に入りづらい。細かいことを疎かにする子は不注意が多いから計算ミスや文章の読み違いも連発して結果として自分で墓穴を掘ってしまい、いつまで経っても勉強が上達しない。
このような当然の理屈を理解していない人は実に多く、表向きに勉強だけ扱っていれば勉強をした気になっているけれども全く実力の養成に結びついていない、水を注いでもザルから水を漏らしっぱなしの人は少なくない。
というところで、T・K君は小6からの4年間の通塾で種まきをし、高校3年間で蒔かれた種が何であったのかを検証し、今、大切なことが何であるかの確信を得た。恐らく、これが成長というものであり、その成長のリズム感が資格を取るぞ!自転車で房総一周するぞ!東武に就職するぞ!運転士を目指すぞ!という向上心を自らかきたてていくのだと思う。
3年前のT・K君のお母さまの卒塾感想を示して、この話を締めよう。
T・K君の健闘を祈る。