2018年最新の高校入試事情

先日、総進図書の塾向け説明会で今春の入試動向の話を聞いてきた。そこでの資料と私がリサーチした点、個人的な意見もあわせて以下にまとめておく。

~都内の状況~

◎都内の私立高校は無償化
2017年度より、小池都知事の施策に基づいて都内在住者を対象に、都内私立高校の授業料が世帯年収760万円未満でほぼ無償とされている。対象となる生徒数は全体の約3割。

その結果、都内在住者は私立高校に進学しやすくなっており、その反面都立高校で定員割れを起こす学校が増えている。平成30年度でも竹台、墨田工業、芝商業といったかつて不人気とはいえなかった高校でも第3次募集まで実施して定員を埋めている。(上記の学校は私が都内でかつて見ていた子達の通っていた学校でもあるので、大変驚いている)

◎女子校の人気低下
中堅~下位の私立女子校は東京でも千葉でも人気が低く、生徒が集まりにくい状況が続いている。

~千葉県公立高校入試について~

◎平成33年度より選抜方式は一本化へ
現在の中学1年生より、前期・後期の2段階選抜が廃止され、一般入試1回のみの一本化が実施されるが、

まあ、どうだろう。

幕張総合の騒動以降、前期選抜における評価項目と評価基準が以前よりも各校で明確になったという意見もあるが、実際のところはどうだろう。表に出ない出来レースの部分は今後も残り続けるように思う。

さて、一本化の初年度については塾通信の過去記事で「私立に流れる生徒が増える」と予測を書いたが、実際に県立を受ける場合は実力に見合った高校を受験し、上位校の倍率が過熱することは抑えられるだろう。

◎前期選抜はチャレンジ志向
普通科の選抜人数の配分は「前期60%」「後期40%」。後期があるということで前期は自分の実力よりも上位の高校を受験するチャレンジ志向が強い。

◎人気のある学校と人気のない高校の二極化が顕著
県立鎌ヶ谷は近年大学進学実績が向上し、10年前に国公立大1名程度だったのが、昨年は17名に増えている。県立鎌ヶ谷は今春前期2.91倍・後期2.05倍で第3学区ではトップ校の東葛飾に次ぐ人気だった。

◎学科別の状況
普通科・看護科・国際関係に人気が集まり、工業・農業系の高校は軒並み低倍率。

首都圏の私立高校から機械・自動車などの専門学科がどんどん絶滅しつつあるわけで、岩倉や安田学園、関東第一もほぼ進学校になってしまった。以前関東第一で聞いた話だが、今の親世代が「わが子を大学進学させたい」意向が強く、専門学科に人気が集まらないということと、高校の専門学科を卒業してもそのまま就職に直結しにくくなっている、大学や専門学校にその後進学しなければ就職につながらない、であれば高校は普通科でいいんじゃないの?という考えに学校自体がシフトしつつあるという入口と出口の話。

で、地域によって学科別の志向が異なる事情もある。具体的に見てみよう。

例えば九州・熊本県の高校の学科別生徒割合を見ると、男子で普通科60%、専門学科で40%になっている。女子は普通科68%、専門学科32%。(平成28年度熊本県の高等学校の学科別生徒数調査より)

これが千葉県で見ると、普通科86%、専門学科14%。(平成28年度千葉県学校基本調査結果より)

都市部は知的能力を普通科で養成する比重が高く、地方は体を動かす系の専門性を養成する比重が高い。首都圏の私立高校から専門学科が消えつつあるのは、あくまで首都東京を中心とした首都圏のエリア特性の問題だ、ということが分かる。

◎倍率が上がると生徒の質がよくなる
松戸馬橋は今年、前期1.82倍で昨年の1.72倍よりも0.1ポイント上昇している。不合格者数でいうと、昨年139名不合格だったのが今年は158名の不合格が出ている。このように倍率が上がると、質の低い生徒がふるいに掛けられ落とされるので、自動的に生徒のレベルが上がる。

すると、昨年の入学式で見られた生徒のおしゃべりが、今年はピタッとなくなった。という風に目に見える形で変化が出てくるのだ。

過去に顕著だった例は、アクティブスクールになってからの船橋古和釜で、アクティブ校化する以前は船橋豊富とどんぐりの背比べだったように私は記憶しているが、例えばH28年度で船橋古和釜1.59倍、船橋豊富1.01倍。これだけで、古和釜高校の内部の安定感、平和加減が充分読み取れるのである。

◎松戸国際の男子率が上がっている
かつては女子の方が多かったが、今では男子にも人気が高い。

◎人気がある高校と人気の低い学校の見分け方
「前期不合格者に対して後期志願者が減少した高校」と「前期不合格者に対して後期志願者が増加した高校」。

前者では鎌ヶ谷が前期不合格366に対して後期志願者272。つまり差の94は他校に流れた。「鎌ヶ谷は厳しいからランクを下げて別の高校を後期で受験しよう」とする考え方。必然的に第一志望のモチベーションの高い生徒が前期・後期ともに鎌ヶ谷高校に集まる。

それに対して後者は鎌ヶ谷西で前期不合格者43に対して後期志願者113。差の70は、もともと「鎌西なんか受けるつもりはなかったけど、前期で他校落ちちゃったから」という消極的な理由で仕方なく後期に鎌ヶ谷西を受験するケース。つまりモチベーションが低いから後期で合格して入学しても・・・。ということだ。

この後者は鎌ヶ谷西の70だけでなく、船橋豊富79、船橋北78、沼南78、沼南高柳74となっているので、これらの高校が位置する鎌ヶ谷から船橋北部にかけての地域の学力状況がどんなものか、ということもここから察することが出来るだろう。

気になったのは、船橋啓明も今春の前期不合格者137に後期志願者207で差が70。鎌西とは倍率で比較にならないが(啓明1.71、鎌西1.26)、それでも鎌ヶ谷ほどの絶好調さは船橋啓明には無いということである。国分、市川東あたりを前期で不合格になった生徒が船橋啓明の後期に流れているとすると、啓明の入学後に「俺さ、ホントは国分行きたかったんだよね」みたいな会話があちらこちらで見られるということか。

◎柏の葉は2.83倍で鎌ヶ谷についで高倍率
まあ、柏の葉が人気だったというのは、数字の上ではそうなのだが、今年は教室キャパの関係上、昨年よりも40名減での募集となっているから倍率が上がるのは当然だろうとも思う。

ただし、今年神尾塾から柏の葉に前期合格した生徒の話によると、説明会や受験時にガヤガヤと私語ばかりしている受験生が軒並み不合格になって居なくなってスッキリした、ということを話していたので、こういう所にも高倍率の効能というものが表れるのだろう。

~私立高校入試について~

◎我孫子二階堂の受験者エリアが変わった
埼玉県の小松原(男子)・小松原女子がそれぞれ叡明・浦和麗明として共学化し、特に叡明は機械科・自動車科をなくして純進学校として越谷レイクタウンの移転と共にリニューアルされた。

その結果、叡明・浦和麗明の難化に伴い、これまで小松原・小松原女子に収容されていた埼玉南部下位層の生徒の行き場所がなくなってしまい、それが我孫子二階堂に流れてきたという話。

◎東葉の単願が増えた
これまで東葉は普通科1コースのみの設定だったが、特進クラス・選抜クラス・進学クラスに細分化された。まさに今流行りの「差別化」である。その結果、第一希望で東葉を単願する受験生が増えた。

これは先ほどの関東第一や岩倉といった中堅~下位の位置づけだった私立高校が専門学科をなくし普通科への純化、そして進学校化という、人気づくりの方程式に則った、首都圏における私学の生き残り戦略そのものである。

◎Web出願が主流に
全日制54校のうち、36校がWeb出願になった。数年のうちにはWeb出願が常識となっていくだろう。私立では学校説明会の申込もミライコンパスのようなWebシステムを経由させるケースが増えている。学校説明会・各種イベント・出願がひとつのIDで紐付けされ、学校側としては見学もせずにいきなり出願してくる一見(いちげん)さんか、熱心に学校見学を重ねて出願している学校のファンか、その辺りがバレバレになってしまう。

◎推薦でも学科試験が増えている
従来の単願・併願推薦では、面接のみといった選考が中心であったが、学館船橋・昭和学院・流経柏をはじめとして国数英の学科試験に変更されるようになってきた。よい傾向である。

◎人気の出ている私立高校
秀明八千代、千葉英和、二松学舎柏、東葉といった、これまで東葛地域の定番併願校とされてきた私立高校の志願者数が増えているというところで見ると、大学進学の強化、学力別のコース分けを中心とした校内改革を推し進めている共学校というキーワードが浮かび上がってくる。

校舎は新しくなったけれどダイナミックな変化のない中央学院、学館浦安、成田、といった大きな変化のみられない学校は軒並み志願者を減少させている。

栄枯盛衰。今は学校にとってもまさに弱肉強食の戦国時代なのだ。