文章速達法


「心の真実を率直に大胆に表すことを勉めさえすれば文章は必ず速やかに上達する」

1915年(大正4)、堺利彦(1871-1933)は名著「文章速達法」を書き、文章の上達の秘訣を述べている。<素人の作文者はまず決して玄人に怯(お)じてはならぬ>。職業小説家や記者は文章の商売人。その文章は綺麗にみえても長年文章を売るうちに人の心をうつ力を喪失している。<玄人の整頓した文章よりも、正直な素人の瑕(きず)の多い文章の方が、はるかに味もあり、力もあり、光もある>といった。作文の第一要件は<真実を語ること>。感じたこと知ったことを率直に書け、それがないときは<文章を書くべきでない>といった。

※出典:「日本人の叡智」(磯田道史・著、新潮新書)

と、いう話を踏まえて、2015年夏、当時中3のT・K君の作文を久しぶりに読んでみよう。


あなたは一年間に約三万頭の犬が毒殺されていることを知っていますか?僕はこの事実をテレビで知りました。中には新しい家族に引き取られる犬もいるそうですがそれはたった数匹でほとんどが毒殺されています。僕はたった一年間で罪のない犬たちが殺されていることに驚きました。捨てられた犬のほとんどが人間が飼いきれなくなり放置された犬で、人間の自分勝手により犬は殺されているのです。人間はとても自分勝手な生き物だと僕は思います。食べ物をすぐに残す人もいます。

本当に食べ物をすぐに残してよいのですか?牛や魚などに申し訳ないと思いませんか?僕たち人間は生き物を殺して食べているのです。たとえば牛丼これは牛の命です。牛はその牛丼のために生まれ殺され牛丼になります。人間は自分勝手な生き物です。それは変わりません。捨てず残さず、大切にしましょう。

「牛丼これは牛の命です」、このインパクトに勝る文章をその後私は目にした記憶がない。


私が公共の場で心掛けていることは、周りの人に迷惑をかけないことです。

最近は、電車の中で化粧をしたり、ヘッドフォンからの音もれを気にせずに音楽を聞いたりする人は少なくなってきていると思います。これはとても良い事です。しかし、まだ完全にいなくなったわけではありません。人類の中には確実に逆の事をする人がいます。なので、そういう事を思わせないようにするためにまず、自分が正しい事をしていかなければならないと思います。それらをするにはまず、音楽を聞くならば音もれがしないタイプのヘッドフォンにしたり、出来るだけ音量を小さくするなどがあり、他にも大きいタイプのバッグを持っているならば、上の場所に置いたり、携帯電話の電源はオフにしておくなど、その場で気づけばとても多くのマナーを守ることができると思います。今、マナーを破っている人は「人のふり見て我がふり直せ」という言葉を知ってほしいと思います。

これは2012年度に当時中3のS・K君が書いた作文。「人類の中には確実に逆の事をする人がいます」、この生徒は何と簡潔にショッキングな一言を発するのだろう。

作文は、いわゆる勉強の「できる」生徒の方が、文章を上手にまとめたり優等生的な視点を描くことに気を取られてしまい、伸びやかさや毒のようなものが失われやすくなっていたりする。紹介した2作文も、決して万人が評価するものではないかもしれない。でも、私にはキラリと光る、原石のようなものが感じられてならない。そういった生命を宿した文章を評価したいと思うのだ。