大地震、県外で何をすべきか

14日の夜。教室で開いているパソコンの画面を見て私は目を疑った。

「熊本で震度7」

まさか、と思いYahooのトピックを開いたらNHKニュースの同時配信が始まっていた。慌てて現地に電話を入れるが繋がらない。何度か試すうちに現地から電話がかかり、知人の無事を確認出来た。

「益城の方は大変だったけど、まあ、熊本市内はこれで復旧も進んで週明けにはある程度戻るでしょ」と話したのが翌15日の夜。マグニチュード7.3の本震は電話を切ったその直後だった。Yahooニュースの号外がスマートフォンの画面に表示されるようになっている。それに気づいて教室でワンセグのスイッチを入れた時には、停電の暗闇で市内中心部を逃げ惑う人々の姿が生中継で映し出されていた。

私も9日前は現地に居たのだ。熊本は水害に見舞われることは度々だが、大きな地震はさほど起きない。阿蘇の火山性地震で震度1-2がたまに起きる程度だ。「まさか熊本に大地震は来るまい」。これが熊本の人たちの共通認識だったであろう。

街はコンパクトでそこそこ都会だ。博多ほど大きくないが宮崎ほど田舎でもない。ちょうどよいサイズでセンスのよい人々が住まい、東に阿蘇の山と西に天草の海を抱えて山海の新鮮な珍味が味わえる素晴らしい土地である。

首都圏の人間からすれば「あんたがたどこさ、の田舎だろ」ぐらいにしか思わないかもしれないが、例えばマクドナルドがかつてBIG AMERICAシリーズのハンバーガーをデビューさせる前に先行発売をかけたのが熊本市で、熊本で売れたら全国で売れる、ということで試験的にリサーチをされるようなことが大企業でよく行われている。

九州新幹線が開通し、博多からも最速33分で繋がるようになった。

その、熊本が今では陸の孤島と化した。昨日と一昨日、市内では断水と食糧不足による生活環境の悪化が進み、空港が閉鎖されているため空路も、九州道も通行できないため陸路も、公共交通も全て不通となり、ゆうパックやヤマト運輸などの個人間の物流も中止されている。

今はニュースの焦点が阿蘇方面に移ってしまい、確かに阿蘇大橋は崩落したし甚大な被害を受けている。しかし、熊本市内が相当過酷になっていることはあまり報じられていない。人口73万人の政令指定都市で、水道と食糧が入ってこない状態。配給もままならず、炊き出しがあれば1時間以上かけて行列を作る。食料が全く入ってこない避難所もあり、その避難所に居る人は食料を求めて別の避難所を転々と探し、ようやくおにぎりにパン1個を得られる。夜は車の中で過ごす・・・そういう光景が至る所で起きている。幸い、市内中心部は電気が通じていることと、電話・インターネットには不自由していない。だから外部との連絡だけは取れる。県外にいて出来ることは、出来るだけ正確な情報を知人に伝えるだけだ。

数年前に塾通信に記した飲食店のマスターも、今は避難所で夜間を過ごしている。店は冷蔵庫も倒れてドアすら開かず、店内は足の踏み場も無いという。営業再開も、相当先になるだろう。救援物資は被害の深刻だった益城・阿蘇方面に偏りがちで、熊本市の方が人口が多いこともあるが疲弊が始まっている。県外にいる私たちに出来ることは何か。自戒も含めて以下にまとめてみる。

【募金も良いが、県産品を買おう】
銀座熊本館に人々が行列をなして買物に来ている、というニュースを見て目頭が熱くなった。募金は募金で大事だが、私たちはきちんと仕事をし、税金を納めている。その税金が適切に分配されて被災者支援に充てられるということを考えると、県外の私たちは、自分の目の前にある仕事をきちんとこなし、きちんと納税するということに尽きるだろう。

そして、地産地消も大事だが、熊本の、大分の、野菜や果物を買うことも現地の経済の血流を動かす大事な要素になる。

【ラジオを聴こう】
スマートフォンであればRadikoプレミアムで全国のラジオが聴けるようになったので、私もそれで熊本のRKKラジオを聴いている。リスナーからの炊き出し・給水情報など、かなり細かい情報が得られる。それを整理して、現地の知人に送ると、現地で心穏やかでなく過ごしていても、よい形で物資の供給を受けられたり出来ることが分かった。

私は以前の塾通信にも書いたが、子供の頃からラジオっ子だったので、中学生の時にもテスト2週間前にラジオ受信機を親に没収されるくらいだった。今でも何かとラジオを聴く習慣がついているが、日常からラジオを聴くことはリスニングも鍛えられるし、想像力もつく。何よりもボキャブラリーも増えるし、雑学・知識の拡充にももってこいだ。

普段からラジオを聴いていれば、いざという時にもラジオを聴こうという行動が出来るので、情報弱者という立場から少しでも遠ざかることが出来る。

今回、ヤマト・佐川など個人的な物資が送れない・届かないことを嘆くよりも、的確な情報に触れて、それに従って現地で行動することが適切なように思った。

【SNSのアカウントは持っておこう】
私は情報収集の目的でTwitter、Facebookのアカウントを持っている。(かつては私のTwitterをきっかけに入塾してくれたご家庭もあったが、今は私からの発信はせず、情報をキャッチする一方だ)

昨日、熊本市で一部地域への上水道の試験供給のお知らせが流れた、しかしホームページが閲覧出来ない。すると、熊本市の大西市長がFacebook上で供給エリアの表を画像でアップされた。飲料水はもちろんだが、水があるかないかはトイレの悪臭と衛生においても極めて重要。大地震は、住む場所は勿論、「食料」と「電気」と「水」の確保の戦争でもある。

試験供給といっても安定して水が出るわけではない。多くの熊本市民は現在入浴が出来ない状態なので、車で被災していない地域の公衆浴場に向かう。熊本から脱出する車も含めて、郊外、特に九州道で開通している植木IC方面への車が大渋滞となる。通常1時間で着く道が5時間かかったという話も昨夜聞いた。

【やはり、備蓄】
数日分の飲料水、非常食(3日程度か)、ポリタンク、トイレットペーパー。

避難所にいても、そこに食糧があるとは限らない。給水でさえ生活用水の給水となり、煮沸しないと飲めない場合もある。自分で身を守れることは出来る限り守ることが大前提となるだろう。普段からある程度のストックをして、そのストックを日常に使いながら補充して一定量のストックを続けるという、生活のサイクルの中に「ストック」という考えを根付かせておきたい。

先ほども現地のラジオを聴いていたら、避難所で和式トイレにかぶせて洋式トイレにするためのアタッチメントを持っている人は提供して欲しい、と呼びかけていた。呼びかけたパーソナリティも、「なるほど、そういう必要があるのか」としみじみ「気づく」ことの大切さを語っていた。

いざとなれば足りないもの、ああしておけばよかった、こうしておけばよかったものは山ほど出てくる。だから、今想定できることは用意しておくのが、県外にいて他山の石として学ぶべき教訓である。

個人のハンバーガーショップで店主が販売用の肉を調理して炊き出しに使ったり、という話を聞くと本当に頭の下がる想いがする。ありがたいことだ。自分もいざの時に、そういう行動が取れるであろうか。取れる自分になりたいと思う。

15日夜の本震から今日で3日目で、まだ助け合い、支えあいの気持ちでしのげるだろう。しかし、空き巣の被害も徐々に出始めていると聞く。飢えれば心が枯れる。心が枯れれば人間の良心を失った行動も増えてくる。そうなる前に何とか物資が市内にも届いて欲しい。

県外にいて出来ることは、自分の仕事をきちんと回して税金を納め、自分たちの地域の経済をしっかりと回すことだ。その回転を維持することを大切にしないと、過度の自粛で回転を止めてしまったら経済も減速してしまい、被災地への支援もままならなくなる。

今回は熊本という地方都市の震災で、地方都市はテレビ・ラジオ・新聞のマスメディアがRKKや熊本日日新聞のように力が集中しているため、統制というかまとまり具合は悪くは無いのだと思う。これが首都圏で直下型地震が起きた時、メディアも人の流れも多方向・多極化して分散している東京・神奈川・千葉・埼玉ではどうやって収拾をつけていくのかと考えると想像を絶する。

でも、歴史的に周期を繰り返しているように間違いなく首都圏直下の地震は来るわけで、その時にどうやって自分と家族の身を守るかということを今回の熊本地震から真剣に学ばなければならない。