水戸岡さんといえば、JR九州の斬新な車両デザインをはじめとして、駅舎・建築・家具などを総合的に手掛ける工業デザイナー。近年ではクルーズトレイン「ななつ星」も話題になっている。「水戸岡鋭冶からのプレゼント~まちと人を幸福にするデザイン」という展覧会に足を運んだ。以前からテレビ番組などで水戸岡さんの姿を拝見することはあったし、水戸岡デザインの車両に乗ったり、眺めたりすることもそれとなくあった。
今回の展示では、これまでのプロジェクトをイラストと写真で時系列にたどると共に、「ななつ星」で使用されている装飾品やシャンプーなどのアメニティといった、細部のデザインまでも詳しく紹介されていた。何よりも私が驚いたのは、鉄道とは直接関係のない鳥や魚などの動物、植物、歴史的風景のイラストが、多数展示されていることだった。特に動物の「サイ」のイラストに至っては、赤・緑・紫・青といった原色を用いながら、まるで点描のように細かく模様が描き込まれている。ピカソや岡本太郎を凌駕するようなその大胆な構図には驚くばかりであった。
1972年のドーンデザイン研究所設立以降、デザインの方向性にはさほど変化はないように感じたが、水戸岡さん自身の中にひとつの「普遍的なもの」があって、それが歳と経験を重ねながら次第に引き出され、ユニークなデザインの車両が次々と産み落とされているように思えた。何といっても、イラストが上手すぎる。もはや天才だ。水戸岡さんにこの根本的能力が備わっているからこそ、イラストに想いを注ぎ、それが人々の共感を呼んで、デザインとして現実の物質化を果たしているのだと思う。
何の分野であれ、基礎的な技術(能力)の備わっている人は敵なしである。このことを痛感させられた展覧会であった。
このことは教育の分野についても同様である。あれもこれも、と手を広げることも悪くはないが、その子に応じて適切な分野で基礎的な技能をしっかりと磨いてあげること。これが欠かせないということなのだと思う。