桃山学院中学校・高校(阿倍野区)

【アクセス】
大阪メトロ御堂筋線の昭和町駅からあびこ筋を南に徒歩5分、谷町線文の里駅からは徒歩8分。

私は谷町線の田辺駅から桃山学院を目指す。田辺駅から阪堺線の旧車両を保存しているめぐむ保育園の脇を抜け、JR阪和線の高架橋をくぐると目の前に桃ヶ池公園が広がる。

読み方は「ももがいけ」だが、古くは「百ヶ池」→「股ヶ池」→「桃ヶ池」と表記は変遷してきたようだ。

それにしても池のなかに住宅地が浮かぶ不思議な地形。

老朽化により社殿が朽ちかけている股ヶ池明神の前を通り、阿倍野中学校の前を抜けると桃山学院に到着する。

【歴史】
現在の西区川口にあった外国人居留地に、明治17年(1884)キリスト教信仰にもとづく小学校が創設されたのが始まり。その後現在の天王寺区筆ヶ崎町に移転する。筆ヶ崎町は上本町と鶴橋を結ぶ近鉄大阪線のすぐ南側で、かつては桃の名所として「桃山」と呼ばれていたらしい。現在でも筆ヶ崎町には「桃山」を冠した建物名が散見される。

したがって、本校の「桃山」のルーツは「桃ヶ池」ではない。この筆ヶ崎町の南にはJR桃谷駅がある。大昔はこの辺一帯に桃畑が広がっていたのだろうか。ちなみに、本校の俗称「ピン高」のピンは「桃」のピンクに由来する。

現在の校地に移転したのは明治45年(1912)のこと。長らく男子校であったが、平成13年(2001)より共学化を開始。平成20年(2008)に中学校が併設された。

【マンモス校】
高校は7コース(1学年17クラス)に分かれる。2022年の高1在籍者は688名。高校3学年で2,000名を超える大阪有数のマンモス校である。

◎S英数(2クラス)=超難関国公立大、医歯薬系大
◎英数(3クラス)=難関国公立大
◎文理(6クラス)=国公立大、難関私大
◎文理アスリート(1クラス)=スポーツ
◎国際A(1クラス)=4日間のアジア研修+1ヶ月間の短期留学
◎国際B(1クラス)=1年間の長期留学
◎一貫(3クラス)=中高一貫

【S選抜コースの設置】
中学からの入学者は「一貫コース」に属して、1学年120名程度。高入生とは混ざらず、中入生と高入生は別カリキュラムが組まれるが、令和5年(2023)に新設される「S選抜コース」では1クラス35名程度で中入生と高入生が初めて混合される。

【国公立大の合格実績】
本校は先ほどのコース内訳の通り、国公立大学の受験に力を入れている。

合格率はこの数年大きな変動はない。
◎2018年=273名(卒業729名)→そのまま割ると37.4%
◎2019年=251名(卒業713名)→35.2%
◎2020年=226名(卒業611名)→37.0%
◎2021年=254名(卒業550名)→46.1%
◎2022年=221名(卒業692名)→31.9%

2022年の合格者数221名の内訳を見ると
◎旧帝大=現役25名(東大1、京大2、阪大17、北海道大3、名古屋大2)+既卒4名
◎その他国立大=現役84名+既卒18名
◎公立大=現役83名+既卒7名

つまり先ほどの
「2022年=221名(卒業692名)→31.9%」は
221名が現役+既卒、692名が現役卒業生数となっており、本校の資料は合格者数を誇張して見せる傾向が若干あるように思われる。

シンプルに現役だけの合格率を出すと
◎旧帝大=現役25名/卒業生692名→3.6%
◎その他国立大=現役84名/卒業生692名→12.1%
◎公立大=現役83名/卒業生692名→12.0%

このように「国公立大」とひっくるめて「221名合格(現役192名、既卒29名)」と書けばインパクトは強いが、上記のように分類すれば、実態の数字が見えてくる。

【関関同立の私立トップは桃山学院(?)】
朝日新聞EduAの2022年5月10日付け記事に基づき「関関同立合格者ランキング~公立校が17位まで独占して私立トップは桃山学院」という資料が説明会で提示されたが、

◎桃山学院=関関同立のべ497名合格(卒業692名)
◎清教学園=関関同立のべ492名合格(卒業356名)

ということで合格者数は本校が私立トップと謳っているが、卒業生の母数が異なるので割合を出せば

◎桃山学院のべ497名合格(卒業692名)→71.8%
◎清教学園のべ492名合格(卒業356名)→138.2%

「母数」を踏まえて比較することの大切さを痛感させられる。

【2022年春・コースごとの大学合格率】
◎S英数コース
旧帝大10.2%、他国立大7.6%、公立大9.7%、関東主要5.4%、関関同立57.9%、産近甲龍9.2%
◎英数コース
旧帝大1.2%、他国立大14.8%、公立大14.3%、関東主要0.4%、関関同立36.1%、産近甲龍32.0%
各省庁管轄大学校1.2%
◎文理コース
旧帝大0%、他国立大6.4%、公立大4.7%、関東主要1.7%、関関同立32.8%、産近甲龍46.5%
桃山学院大7.6%
◎国際コース
旧帝大1.0%、他国立大0%、公立大3.0%、関東主要9.0%、関関同立44.0%、産近甲龍41.0%
桃山学院大1.0%
※国際コースは国際系または海外大学の進学も多い。
◎一貫コース
旧帝大1.4%、他国立大8.2%、公立大7.5%、関東主要0.7%、関関同立29.3%、産近甲龍37.4%
各省庁管轄大学校5.4%、桃山学院大10.2%

【自習ステージ】
S英数・英数コースは高1の1学期前半で、平日の放課後16:40から19:50まで全員参加の強制自習。その後は成績次第で任意参加に切り替わる。一般の自習は机ごとに仕切りがついたプレミア自習室、廊下自習スペース、図書館などで利用可能。

【部活動】
中学校は平日3回を活動日の上限として、高校は全コースともに成績次第で活動が制限される場合がある。高校のクラブ加入率は50%。

【制服】
中学校は制服着用、高校は標準服が定められているが私服も可能。ざっと見た所、標準服が1割、あとの9割は私服。女子生徒の方が標準服を着用しやすい印象。

【校内見学】
岡田賢三校長先生のご案内で校内見学をさせていただいた。中3の修学旅行を生徒のプレゼンテーションで決定するように、先生からのトップダウンではなく生徒の自主性と自由を基盤に据えた学校運営がなされている。

Z会などで数多くの英語参考書を執筆されている岡田先生だが穏やかなお人柄で、むしろ一緒に見学を引率された幹部教員の先生の方が「(岡田校長)次はどこだったかな」「(幹部の先生)次はこちらです」という風にリードされている様子だった。もしかすると学校運営そのものも、トップダウン型の組織ではないのかもしれない。

中高全学年で2,400名を超える大規模校だが、校内の雰囲気はとても落ち着いており、それはそれで凄いことである。創立138年という歴史が<自主性・自由>と<安定した統治>を両立させているのかもしれない。

先の合格者数の誇張については、仮にそうだったとして好ましくないというのはド正論に過ぎないが、実は「国公立大合格に強い桃山学院」を表向きに演じることにより、少子化で私学経営が厳しい時代に入る中、本校の本質である「自主性・自由」の校風を守るための方便と解釈することも出来そうだ。

(2022年6月10日訪問)

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