帝塚山学院中・高(大阪市住吉区・女子校)

「あべのハルカス」と「Q’sモール」に挟まれた阪堺電車に乗って天王寺駅前から出発。線路の上なのに乗用車が並走する、これまた大阪独特のカオスな風景。レトロな路面電車にゴトンゴトンと揺られながら11分ほどで帝塚山三丁目に到着。

大阪の高級住宅地、帝塚山(てづかやま)。上町台地の北端が大阪城の付近で、そこから旧難波京、四天王寺のあたりが標高のトップ。台地の南側が帝塚山、すぐ近くの住吉大社付近となり、古代、台地の周囲は海だったことから住吉大社には海の神が祀られている。

観光客だったら電停と気づかずに通り過ぎてしまう、道路に一段高さを設けているだけの帝塚山三丁目の電停を降りて、西の路地へ入る。早速、阿倍野あたりの住宅地とは趣の異なる大型の個人邸宅が視界に入る。大阪の住宅建築はどこも特有の色気があり、街歩きをしているだけで楽しいが、帝塚山は更に高級感が増し、閑静な住宅街を形成しているのがよく分かる。

程なくして帝塚山学院。幼稚園、小・中・高校校舎、幼稚園・法人本部と2校地に分かれている。堺市の泉ヶ丘には系列の中高、大阪狭山市には帝塚山学院大学がある。

【奈良の帝塚山学園は?】
奈良には近鉄線生駒と大和西大寺の間に共学で難関進学校の「帝塚山学園」があり、帝塚山中・高、幼稚園、小学校、大学が存在する。こちらは昭和16年(1941)「帝塚山学院(大阪)」の設立25周年に新たに設立された法人で、帝塚山学院(大阪)と帝塚山学園(奈良)は現在別法人であるが、校章はどちらも松をモチーフにした、類似の図案である。

奈良の「帝塚山」という地名は帝塚山学園が由来であり、いずれにしても帝塚山の元祖といったら大阪の帝塚山ということになる。

【歴史】
本校の創立は大正5年(1916)。大阪市中心部の船場の商人によって、明治時代に開拓が進められた帝塚山周辺。大正期の宅地開発にあわせ、帝塚山に学校を作ろうということで設立されたのが帝塚山学院。

歴史を最も感じさせるのは「制服」で、100年前の創立時からそのデザインがほとんど変わっていないのは凄いことだ。

【コース編成】
◎関学コース(3クラス)
→中高大12年間の一貫教育。関西学院大入学後、学部1位(総代)も本校から輩出。その生徒は早期卒業制度を利用し、大学3年間で単位を取得。4年目で大学院へ進学している。
◎ヴェルジェコース
 〇プルミエ(3クラス)
 →英語、アクティブラーニングに焦点。英語ではイマージョン教育(英語で各教科を学ぶ)、アクティブラーニングでは「時事力養成講座」「心理学」「サイエンス・ラボ」「ビジネスコミュニケーション」といった多様なプログラム『創究講座』を10年前から実施。アクティブラーニングの先駆け校として、アクティブラーニングの第一人者、溝上慎一先生(元京大)により本校の取り組みが注目され、溝上先生ご自身が現在でも度々来校されている。
 〇エトワールコース(2クラス)
 →国公立・難関大を志望。一人ひとりに目をかける女子校ならではのエトワールプログラムを実践。

近年、コース名に変わった名前を付ける学校が増えているので本校もその類かと思ったら、そうではなかった。「ヴェルジェ」とはフランス語で「果樹園」を意味し、昭和22年に発行された本校の季刊誌『ヴェルジェ』に由来していたのだ。生徒は苗木で、家庭は太陽、学校は水。制服もそうだが、本校はことごとく歴史の上に息づいている学校である。

入学者も広範囲にわたり、神戸・奈良・和歌山・枚方・高槻・豊中・千里中央と、本校に入りたい生徒が各地から本校に入学している。

【ダンス日本一】
2019年8月17日、第12回日本高校ダンス部選手権大会で、出場2回目にして全国495校の頂点に立って1位となった。

岡本太郎の『明日の神話』をモチーフにした作品で、ダンス部の生徒たちは準備期間に広島の平和祈念資料館を訪れたり、なぜ自分たちは舞うのか、という根源のテーマを追求した上でパフォーマンスに昇華させている。高3のキャプテン、副キャプテン、部長の声を聞いたが、自分なりの確固とした考えをそれぞれ確立させており「何を伝えたいのか」ということを常に考えている。これは卒業後、社会に出てから更に活躍する生徒たちだろうと強く私は思った。

【ラーニング・コモンズ】
2018年9月から、図書館一体型の「ラーニング・コモンズ」を設置。
◎図書館=インターネット+リサーチフィールド
◎アクティブラーニングスタジオ=壁面ホワイトボードを使用しての議論
◎クリエイティブスクエア=プレゼンテーションの場

という風に、3つのシステムを循環しながら生徒たちは探究を深めている。更に英語環境「グローバルラウンジ」によって、ネイティブの英語教員との随時会話ができるスペースも設置。

【中学入試】
想定偏差値(五ツ木・駸々堂)は関学コース52~56、ヴェルジェコース42~44。

【高校入試】
関学コースは英検準2級の取得が出願要件。ヴェルジェコースの想定偏差値(五ツ木)は専願で音楽・美術系45、プルミエ47、エトワール56となっている。併願は更に+2が必要。

【まとめ】
小・中・高校校舎のすぐ西側を南海高野線が通っており、学校から徒歩1分もしないうちに帝塚山駅に着く。各駅停車しか停まらない地味な駅だが、その落ち着き感は帝塚山の雰囲気ならではであるし、本校は地域に溶け込んでしっとりとした、しかし盤石の基盤と歴史と信念をもった学校であることは間違いない。先生方の雰囲気もまさしくそうである。生徒に行かせたい学校をまたひとつ発見してしまった、という嬉しい学校訪問であった。

追記
帰路、せっかくなので帝塚山駅から南海高野線。萩之茶屋あたりの極めて独特なエリアを通過して、今宮戎で降りる。「えべっさん」こと今宮戎神社に初めて参詣。正月の十日戎のイメージで広い境内を想像していたが、意外とコンパクトで驚く。徒歩で北上し、南海なんば駅の付近で東の路地に入り、黒門市場へ。ほぼ外国人向けの看板に外国人がごった返す商店街であった。店先で雲丹や焼き海老、シャインマスカットの串刺しなど見ているだけでも楽しいと思っているうちに千日前、そして日本橋。日本橋から堺筋線2駅で塾の近くまで来てしまうのだから、大阪のコンパクトなミラクル感がやはり楽しい。