モノの受け渡し

生徒から先生へ、つまり目上の人へモノを渡す時は両手を添えて渡す。これは一般常識としての鉄則である。

私も、私にとっての目上の人物、または社会的に場をわきまえなければならない時には必ず両手でモノを渡す。片手で「ホイッ」と渡すようなことはしない。

塾生でも、指摘される前からこれが出来ている生徒は立派だと思うし、その生徒に対する印象はすこぶる良い。現状で大体7割の生徒が出来ている状態だろうか。逆にこれが出来ていないで私の目に余る場合は、「両手で渡すものだよ」と指摘するようにしている。

さて。受け取る私は両手で受け取るべきか、片手で受け取るべきか。

私は「あえて」片手で受け取る。これは生徒からモノを受け取る場合。当然ながら、保護者の方と面談をする際などは必ず両手でモノのやり取りをする。

なぜ生徒からは片手で受け取るのか。これはあくまで教室内での秩序(上下関係)をはっきりとさせるためである。

これには神社祭式を考え方の規準にした。つまり、複数の祭員がいる祭典では、祭式をつかさどる斎主(さいしゅ)がおり、その下に斎主が読み上げる祝詞(のりと)を運ぶ祝詞後取(のりとしどり)という所役がいる。

斎主が祝詞奏上をする際に、後取(しどり)は祝詞を運んで斎主に渡す。その際、後取は斎主に両手で祝詞を渡し、斎主はそれを右手で受け取る。そして、祝詞奏上のあと、斎主は右手で後取に祝詞を返し、後取は両手でそれを受け取って元の位置へ運ぶ。

ここだ。ここで上下という立場の違いを行為に表すことで、貴い存在と、それに向かう存在との優先順位が明確になる。従って秩序が保たれ、各人が全体の中で自分の立ち位置を自覚して、混乱なく全体が前進していくことができる。

と、こういう理由で私は生徒からは片手で受け取り、生徒には両手で渡させるようにしているその根拠としている。

生徒が先生にタメ口を使う、横柄な態度をとる、なんてことは絶対に許してはならないし、「秩序」というものを若年の時から身につけておけば、無意識のうちに今後いついかなる場合でも自分の立場にふさわしい行動が取れるようになることと思う。

また、「秩序」というものを大切にしておかないと、世の中は自分のしたい放題何でもアリだ、という思想が出て、世の中まとまるものもまとまらなくなってしまう、という風に混乱すること必至だからである。