大学入学共通テスト<数学>の読み解き

従来のセンター試験に代わり、2021年1月開始予定の大学入試共通テストについて、駿台・代ゼミ・ブロヨビ数学講師、阿部茂先生の講義記録。

—(ここから)

◎学校の数学の先生は数学科出身が多く「数学を楽しみたい」ので先生自身が難問を解きたがる性質が多い。生徒にも難問を解くことを求め、確実に解ける問題を生徒に確実に解かせる方向性を示す「コーチ」になっていない。

◎生徒は具体的な話を記号化して抽象的に考えることが苦手。
 (例)すき焼き(十分条件)⊂肉(必要条件)

◎共通テストでは記述式問題が登場する。この場合、記述に様々な書き方があり、採点が難しくなる。生徒の数学力よりも採点スタッフの数学力が低い場合、本来満点を与えるべき答案が0点にされてしまうリスクもある。

◎問題文が長くなり、「次のような太郎さんの構想により証明できる」といった意味のない文章が随所で追加されてくる。

◎H30年度試行調査において「建築基準法による階段の基準」の「踏面(ふみづら)」と「蹴上げ(けあげ)」による角度の傾斜に関する問題が出題された。どれだけの生徒が今後の人生でこの話題を必要とするのか?といったジャンルの問題も出題されている。

◎理学部の中で数学科は最も入りやすい。

◎予備校の数学の先生が「あれは面白かった」という問題は、一方で「置いてけぼり」になっている生徒が多い問題でもある。

◎予備校の数学の先生が「あれは面白かった」という問題は大学の幾何っぽい問題であり、本番の入試+模試でネタが早期に尽きてしまうので、ネタが尽きた後は難問が出題されていく可能性が高い。

◎計算量が激減して、図形問題が増えている。

◎センター試験では計算して答えを導いていた問題が、共通テストでは図を描いてみてイメージだけで(計算無しで)答えが出せる問題になっている。

◎身近な話題を用いた中学生の連立方程式の文章問題(太郎さんは食品AとBを食べるにあたり、エネルギーは1500kcal以下に・・・)のような出題もあり、高校入試っぽい問題も含まれている。

◎立体図形の問題は実際に工作してみると面白いが、本番の入試では問題用紙を折るしかない?

◎眠気に襲われる生徒が以前よりも増えている。眠くなったら両手を高く上げて、深呼吸をし、鼻から吸って口で息を吐く。

◎H30年度試行調査は数学Ⅰ・Aで目標50点のところが平均26点、数学Ⅱ・Bで目標50点のところが平均36点であった。これは作問の失敗ではないか?
 →問題のストーリーが長すぎた?
 →文章が長すぎて、何を言っているか分からなかった?
 →開成高校などのハイレベル生徒が受験する模試の成績分布と似ており、共通テストは京大・阪大レベルの出題になっているのでは?つまり120点満点の10点程度で合格となる難関大も出てくるだろう。

◎次の共通テストではH30年試行調査と同じような出題となり、センター試験に戻ることもなく、結局「量は減らすが質は維持する」になるだろう。

◎基礎学力が大事!
「分数の文字式のプラスマイナスの処理」「括弧のある・なしの累乗の処理」「1/a+1/b=1/cのときa+b=c」「4人でじゃんけんのパターン=4の3乗」など、豊中高校文系高3クラスの生徒でさえ、公立中学生レベルの基本的な問題を間違えている。

◎ミスノートをつくれ
小さいノートに自分のミスをまとめて、必ず反省文を書く。模試の直前に読む。
ミスは暗算から起きることが多い。

◎ミスは2種類ある
「システマティック」(1+√3+√11)の9乗→地道に解こうとして間違えたまま進めたら悲惨。
「アクシデンシャル」1+1=3になってしまった。字が小さい、字が雑なことが原因。「aがいつのまにか9」になってしまった、「1が7」になってしまった等。

◎やる気があればミスを減らせる。成功体験があるとミスが減る。

◎現在の生徒に共通テストを解くスキルはない
 →「図形」の問題を練習する。計算問題が減ると、自動的に「図形」問題が増える。
 →6カ年中高一貫の生徒は図形が苦手なケースが多い。高校受験をしていないため図形力がついていない。
 →学校の先生が自作でプリントを作っている場合、図をパソコンで作るのが大変なので文章ばかりのプリントになってしまい、生徒の図形苦手と連動してしまう。
 →とにかく図を描かせる。
 →円はフリーハンドで描く。
 ※余談:記憶力の高い飲食店の店員(注文メニューと会計とテーブル位置が紐づいている)は上空から俯瞰して店内図を認識しているのでは?

◎公式の運用は「使う」→「覚える」→「示す」の順序が大切。「示す」は最もレベルが高く難しい。

◎公式集を自分でつくる。
 →「2!=2×1」だが「0!=1になるのは、ただそう決めただけ」

◎「解ける」と「分かる」は別。「真似る」→「解ける」→「分かる」→「もっと解ける」の流れで。

◎出題形式に慣れる。最初は時間無制限で良い。量を重ねるうちに段々スピードが上がっていく。そこから次第に時間を計っていけばよい。

◎高校入試の理科っぽい数学(濃度、湿度など)も共通テストの参考になる。

◎共通テストではまず50点を目指す。そういう目標でないと数学嫌いになってしまう。50点が取れれば、試行テストでは偏差値70では?

◎王様のように受験しろ。パニックになるのが受験で最もダメ。パニックを起こしそうになったら鉛筆を置いて天井を見ろ。

—(ここまで)

今からちょうど4日前、記述式での共通テスト実施を見送る可能性のあることが報道で明らかになった。文部科学省で今月中に結論が出される模様だが、この阿部茂先生の講義内容はそういった目先のテスト形式の問題よりも、もっと肝心な数学指導における「コーチング」のエッセンスがふんだんに含まれている。