京大・おどろきのウイルス学講義

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◎物質量(炭素量)で見積もると、人類全体より、地球上のウイルス全体のほうが重いと推測されています。一つひとつのウイルスは非常に小さいものですが、大量のウイルスがいるため、重量換算すると、ウイルスのほうが人間より重くなるんです。(P.78)

◎エンベロープをもっているウイルスはエンベロープウイルスと呼ばれます。エンベロープは脂質ですから、エタノールなどの有機溶媒に弱い性質をもっています。「新型コロナウイルスは、エタノールが効きますか」と質問されることがありますが、エンベロープをもっていますので、エタノール消毒が効きます。エタノールが効くか効かないかは、エンベロープウイルスかノンエンベロープウイルスかをわかっていれば、即座に判断できます。(P.82)

◎「UV(紫外線)はコロナウイルスに効きますか」という質問を受けることもありますが、UVを当てるとウイルスの核酸(DNAまたはRNA)が傷付くので、効果があります。(P.83)

◎「ゼロコロナ」という言い方も誤解を生みます。仮にSARS-CoV-2がこの世から消え去ったとしても、「ゼロコロナ」にはなりません。SARS-CoV-2以外にも、別のヒトコロナウイルスが存在していますし、動物由来の新たなコロナウイルスが人で流行する可能性もあります。私たち人間は動物とともに生きていく以上、常に「ウィズコロナ」です。(P.97)

◎新型コロナウイルスの場合も、ヒトの移動によって変異株が広がるとは限りません。ヒトが移動しなくても、世界で独立して同じような変異株が出現し、広がっていく可能性はあります。日本で変異株が広がったとしても、イギリスからの入国者のウイルスが広がったのではないかもしれない。そこがウイルス制御の難しいところです。(P.102)

◎人間は生まれてからずっと同じ遺伝子情報を保っているように思われていますが、遺伝子情報はところどころ書き換えられています。生まれたときのDNAと死ぬときのDNAは部分的には違っています。(P.138)

◎現在の生命技術は非常に進んでいます。いずれ人工胎盤も開発されると思われます。人工的なタンクの中に人工胎盤と胚を入れてヒトを発生させる時代が来るかもしれません。(中略)このような生命技術が進めば、家族の概念はいずれなくなるかもしれません。(P.176)

◎「哺乳類の時代」といっても、人間が勝手に名付けているだけです。(中略)人間はアリをバカにしているかもしれませんが、アリ全体の炭素重量とヒトの炭素重量はほぼ同じと見積もられています。(中略)地球では様々な生き物が繁栄しているのです。(P.192)

◎本書で言いたかったことの一つに「ウイルスは決して悪者ではない」ということがあります。動物も植物も細菌もウイルスもすべて地球上の生き物で、相互に作用しながら生きています。本書に書いたように、ウイルスが無ければ、人も動物もここまで進化しなかったのです。(中略)ウイルスの真の姿を皆様に知って頂き、新型コロナウイルスの存在もあるがままに見つめ、冷静に対処してくれることを望んでいます。(P.207)
—(抜粋ここまで)

京都大学ウイルス再生医科学研究所准教授・宮沢孝幸先生の最新刊。
宮沢先生と言えば、塾通信vol.540-12/28で紹介した、下記ページ。

◎コロナ1/100作戦
https://www.keinet.com/seiryous/wp-content/uploads/sites/349/2020/07/636e29c2b3e74dcf3b45887fb4b00752.pdf

本書はまえがきに「難しいところは、無理に理解しようとせずに先に読み進めて下さい」と宮沢先生ご自身書かれている。

ヒトの胎盤に欠かせない「レトロウイルス」の働きなど、読む人それぞれにとっての気づきと学びが得られるだろう。

『京大・おどろきのウイルス学講義』(宮沢孝幸・著、PHP新書)